[出典]"A path to efficient gene editing" Urnov FD. Nat Med 2018 Jul 9.
  • Nature Medicine (2018-07-09)のNews & Viewsは、6月11日に同誌がオンライン出版した「腫瘍抑制因子p53のシグナル伝達が、CRISPR-Cas9によるヒト多能性幹細胞 (hPSCs:hESCsとhiPSCs)と不死化ヒト網膜色素上皮細胞 (human retinal pigment epithelial cells:hRPECs)の遺伝子編集に拮抗する」をテーマとする2論文 (Ihry RJ et al. ; Haapaniemi E et al.)*を取り上げ、CRISPR-Cas9による遺伝子治療に対して意味するところを考察
  • ZFNsとTALENによるゲノム編集による療法の研究には10年近い歴史があり、その安全性を裏付ける報告が多々なされており、ヒト造血幹細胞・前駆細胞 (hHSPCs)のZFNゲノム編集による臨床試験が進行中である(HIV-1 療法βサラセミア療法)。また、Cas9を利用したhHSPCsゲノム編集の安全性を裏付ける事例も蓄積され、臨床試験が近々始まる見込みである。
  • しかし、ゲノム編集したhPSCs由来の細胞療法については、米国と欧州では臨床試験が始まっておらず、臨床試験の計画もゲノム編集技術に取り組んでいる主要なバイオテクノロジー企業のいずれもが表明していない。一方で、hESCsから分化した細胞を移植する黄斑変性症療法の臨床試験は順調に進んでおり、新たな臨床試験も予定されている。そこで、hPSCs技術にCRISPRゲノム編集を組み合わせた治療法実現に向けて、2論文が今回提起した'p53'問題を解決することが重要である。
  • 2論文は、ex-vivoでCRISPRゲノム編集したhPSCsには、p53の変異または下方制御のセレクションがかかり、腫瘍化するリスクを帯びることを示したが、臨床応用にあたっては、こうした細胞や目的以外の変異を帯びた細胞を排除することが必須となる。'p53'課題解決法として、ゲノム編集時に一時的にp53を抑制することで臨床応用に十分な安全性を確保できるかを評価することが必要であり、さらに、一般的にゲノム編集したhPSCs由来細胞の安全性を評価する手法の開発が必要である。
  • *)"CRISPRとp53"関連crisp_bio記事:2018-06-12 CRISPR/Cas9の編集効率と癌抑制遺伝子p53の活性が相反する;2017-08-27 p53を阻害するとCRISPR/Cas9のHDR効率が著しく向上する