[出典]
- "Repair of double-strand breaks induced by CRISPR–Cas9 leads to large deletions and complex rearrangements" Kosicki M, Tomberg K, Bradley A. Nat Biotechnol 2018 Jul 16.
[背景]
- CRISPR-Cas9を遺伝子治療に展開するには、Cas9が誘導する遺伝子変異を詳らかにする必要がある。これまで多様な細胞において、Cas9による二本鎖DNA切断 (DSB)から誘導される変異の殆どが20bp未満のindelsであり、数百ヌクレオチドの規模のindelsが発生はするが稀であるとされてきた。こうした知見が蓄積されたことから、Cas9が誘導する変異はほぼ(reasonably)標的サイトに限定されるという想定の元に、鎌状赤血球症遺伝子治療、PD-1などを標的とするT細胞改変、HIV-1の宿主因子CCR5遺伝子編集など、Cas9編集細胞療法の臨床試験が進んでいる。
- これまでに、局所的削除を目的とする一対のgRNAsを利用した編集からは、逆位、内在および外来DNAの挿入、想定以上の大規模領域の削除といった複雑な変異が発生することが報告されている。また、単一のsgRNAでもマウス接合子において600-bpに及ぶ削除や、半数体癌細胞における1.5 kbに及ぶ削除が、報告されている。しかし、これらの報告の殆どが、オンターゲットまたはオフターゲットのサイトの周辺の短い領域 (<1 kb)のPCRに依存していることから、大規模な領域にわたる変異を見逃している可能性がある。
[概要]
- 今回、サンガー研究所の研究チームはマウスESCs (mESC)、マウス造血前駆細胞 (mouse hematopoietic progenitors)、およびヒト分化細胞(女性由来の不死化した網膜色素上皮細胞)において、PacBioを利用したロングリードシーケンスとLongAmp Taq DNA Polymeraseを利用したロングレンジPCRジェノタイピングにより、Cas9-sgRNAがオンターゲット領域に、疾患を誘導する可能性もある重大な変異を誘発することを見出した。
[アレルの多様化]
- 主として、オスのmESCにおいて半接合(hemizygous)であるX連鎖PigA遺伝子を対象に解析。
- JM8マウスのESCに、PigA遺伝子のエクソンとイントロンを標的とするCas9とgRNAをそれぞれPiggyBacトランスポゾンにより導入;Cas9-gRNAを介したDNAの切断・修復後、PigA欠損細胞をFACSで分取し、単一細胞クローンを分離し、Cas9による切断サイトを含む領域を増幅し、シーケンシングし、参照ゲノム配列にマップ
- エクソン標的でもイントロン標的でもPigA欠損発生:第2エクソンと第4エクソンを標的とする単一gRNAsによるPigA欠損発生率は59-97%;エクソンから263-520-bpのイントロン領域を標的とする10種類のgRNAsによるPigA欠損発生率は8-20%であり、一対のgRNA(標的間隔 2-kb)によるPigA欠損発生は5-7%。
- Cd9遺伝子座においても、また、Cas9-gRNA送達法をRNPのエレクトロポレーションおよびリポフェクションに変更しても同様の結果
- エクソン標的gRNA1種類、イントロン標的gRNA2種類から誘導されたPigA欠損細胞について、エクソン2周辺の5.7-kbの領域をPCRしPacBioでシーケンシングし、キロベースの欠失やエクソンの欠失を同定。PacBioのリードのクラスタリングから、3種類のgRNAsが誘起した(単純な欠失・挿入から複雑なゲノム再編成まで多様な183種類のアレルを同定。そのうちの一つは、Hmgn1遺伝子の連続する4つのエクソンと完全に一致した。
- 続いてアンプリコンシーケンス解析(16-kbまで)により、エクソン標的単一gRNAsによる最長6-kbに及ぶ欠失、および、イントロン標的単一gRNAsによる切断サイトからエクソンまでの欠失(最長9.5-kbに及ぶ)や、エクソンを含む領域の逆位などの複雑なゲノム再編成を同定。
[関連ニュース記事の一部] (2018/07/18追記)
- "Genome damage from CRISPR/Cas9 gene editing higher than thought - Caution required for using CRISPR/Cas9 in potential gene therapies" Wellcome Sanger Institute News. 2018 Jul 16.
- "CRISPR gene editing produces unwanted DNA deletions" Ledford H. Nature 2018 Jul 16.
- "A Single Study Is No Reason to Sell Crispr Stock" Borsellino R. InvestorPlace 2018 Jul 16.
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