1. キナーゼドメインにフォーカスしたCRISPRスクリーンによって、ヒト赤芽球において胎児ヘモグロビンを調節するキナーゼを同定
  • [出典]"Domain-focused CRISPR screen identifies HRI as a fetal hemoglobin regulator in human erythroid cells" Grevet JD, Lan X [..] Shi J, Blobel GA. Science 2018 Jul 20.
  • 鎌状赤血球症の療法として胎児ヘモグロビン(HbF)の発現レベル調節が研究されている。ペンシルベニア大学などの研究チームは今回、不死化されたヒトの赤芽球前駆細胞HUDEP-2を対象とした482種類のキナーゼドメインを標的とするCRISPRスクリーン(6 sgRNA2.1*s/ドメイン)の結果、heme-regulated eIF2α kinase (HRI/EIF2AK1/真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ1)が、赤血球細胞 (RBCs)におけるHbFの発現レベルを調節することを同定した。
  • HRI欠損によって、HbFのレベルが上昇し、ヒト培養RBCsの鎌状化が抑制され、HRIは鎌状赤血球症を始めとするヘモグロビン異常症の治療標的であることが示唆された。
  • *) 原論文のSpplementary textから引用 "We found that an extended hairpin structure in both tetraloop and stem loop regions of the sgRNA backbone (termed sgRNA2.1) "
2. バクテリオファージは協働してCRISPR-Cas3/-Cas9免疫応答を抑制する
  • [出典]"Bacteriophage Cooperation Suppresses CRISPR-Cas3 and Cas9 Immunity" Borges AL, Zhang JY, Rollins MF, Osuna BA, Wiedenheft B, Bondy-Denomy J. Cell 2018 Jul 19. (bioRxiv 2018 Mar 8);"Altruistic Viruses? Phages Fight Back Against CRISPR Defenses In Bacteria" Stein V. UCSF News 2018 Jul 19.
  • crisp_bio注:本論文はbioRxiv投稿時に「CRISPRメモ_2018/03/11 3. バクテリオファージは協働してバクテリアのCRISPR-Cas3とCas9による免疫応答を抑制する」としてcrisp_bioに掲載済み
  • バクテリアはCRISPR-Cas獲得免疫システムによってバクテリオファージ(以下、ファージ)に対抗し、ファージは抗-CRISPR(anti-CRISPR: Acr)タンパク質生産してこれに対抗する。このところAcrタンパク質の構造と機能の解明が進んできたが、Arcタンパク質を発見したJ. Bondy-Denomy (UCSF)らは今回、バクテリアにファージが感染する際にCRISPR-Cas9を克服する分子機序を明らかにした。
  • 先行研究から、CRISPR/Casシステムは、ファージがAcrを生成・機能させるよりも短時間(< 2分)でファージDNAが切断するとされている。
  • Arcタンパク質は、CRISPR-Cas免疫応答に抗したファージの複製を保証するものではなく、ファージの量が臨界値を切ると感染は失敗に終わる。
  • しかし、複製に失敗したファージゲノム由来のAcrタンパク質に集積が、宿主細胞を免疫抑制状態に止め、ファージの再感染を助ける。
  • すなわち、ファージ集団には自己犠牲・利他的な行動が内在している。
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3. CRISPR/Cas9により多倍数体脊椎動物の効率的ゲノム編集と、有利な形質をもたらす人工的多倍数化への展開
  • [出典]"CRISPR/Cas9 Application for Gene Copy Fate Survey of Polyploid Vertebrates" Yin F, Liu W, Chai J, Lu B, Murphy RW, Luo J. Front Genet 2018 Jul 20.
  • 全ゲノムの重複 (whole genome duplication: WGD)を介した倍数化は植物でよく見られるが脊椎動物では稀な現象である。WGDは、ゲノムおよびエピゲノムの不安定化を介して'genome shock'を引き起こす一方で、子世代に親世代に無い有利な形質をもたらすこともあるが、その分子機序は明らかになっていない。
  • 云南大学などの研究チームは今回、CRISPR/Cas9を利用することで四倍体キンギョ(Carassius auratus)のfgf20a-1とfgf20a-2の2コピーが存在するをfgf20a遺伝子をモデルとして、倍数化に伴う遺伝子コピーにおける機能分化の解析が可能なことを示し(下図参照)、また、CRISPR/Cas9を利用して人工的多倍数化の可能性を示唆した。Polyploid Vertebrates
4. 米国科学・工学・医学アカデミー、遺伝子編集による品種改良を推奨
  • [出典]"Science Breakthroughs to Advance Food and Agricultural Research by 2030" The National Academies Press 2018.
  • 米国科学・工学・医学アカデミーは、食品産業および農業に関連する研究におけるブレークスルーをテーマとする報告書において、CRISPRにも言及し、品種改良を目的とするゲノミクスと精密育種 (precision breeding)の開発を推奨