1. ヒト細胞のCRISPR-Cas9ゲノム編集に、Fanconi anemiaパスウエイが関与する
- [出典]"CRISPR–Cas9 genome editing in human cells occurs via the Fanconi anemia pathway" Richardson CD, Kazane KR, Feng SJ, Zelin E, Bray NL, Schäfer AJ, Floor SN, Corn JE. Nat Genet 2018 Jul 27;"CRISPR-Cas9 genome editing in human cells works via the Fanconi Anemia pathway"bioRxiv 2017-05-09.;[モデル・ビデオ]IGI Paper Delivery: Uncovering a hidden step in CRISPR "cut and paste
- [背景] CRISPR-Casシステムが誘導するDNA二重鎖切断(DSB)からの修復を利用する遺伝子置換法が急速に広がってきた。この修復は、二重鎖DNA (dsDNA)を修復のドナーとする相同組み換え (homologous recombination: HR)と、合成した一本鎖オリゴDNA (ssDNA)を修復のテンプレートとするsingle-stranded template repair(SSTR)の2種類の相同組換え修復 (Homology Directed Repair: HDR)過程に依存する。
- 遺伝子置換の効率は、ほとんどの細胞においてdsDNA-HRが低く、SSTRはヒト細胞の20%を超えるアレルに対して高い置換効率を示すが、その分子機構の解明は進んで来なかった。
- Innovative Genomics Institute/UC Berkeleyの研究チームは今回、数千の遺伝子ノックダウンからの多重な編集結果を解析する"coupled inhibition-cutting"プラットフォームを開発し(原論文 Fig. 1A参照)、ヒト癌細胞をスクリーニングしている過程で、SSTRには、Fanconi anemia (FA)パスウエイに関与する因子群が必須であることを見出した。FAパスウエイは、DNA鎖間架橋修復 (interstrand cross-link (ICL) repair)に関与するとされている。
- "coupled inhibition-cutting"法は各遺伝子の転写開始点を標的とするプール型sgRNAs (2,000遺伝子を標的とする5 gRNAs/遺伝子)に基づくCRISPRiに、BFPレポーター遺伝子を標的とするCas9 RNPと、BFPをGFPに変換するための3-bpコドン・スワップをもたらすssODNレポーター遺伝子による遺伝子ターゲッティングを組み合わせ、BFP-GFP変換を指標として、編集を加えた細胞集団をFACSで選別し、細胞の亜集合ごとに含まれるgRNAをイルミナでシーケンシングし、編集の有無そしてまたは編集パスウエイと遺伝子の相関を同定する。
- その結果、FA関連遺伝子群のノックダウンがSSTRを著しく阻害し、さらに、FA遺伝子の阻害実験を介して、FAパスウエイがDSB修復過程としてNHEJに対してSSTRを亢進することを見出した(著者らはFA因子群を'交通信号'に例えている)。
- FAパスウエイ関連因子の中で、FANCD2タンパク質はCas9に誘導され修復進行中のDSB部位に局在し、ゲノム編集の調節に直接関与することが示唆された。
- FA自身は遺伝子疾患であり、今回のデータは、遺伝子編集療法の効用が患者の遺伝型そしてまたはトランスクリプトームに依存すること、また、FA修復パスウエイへとシフトさせる手法が遺伝子置換ひいては遺伝子治療に有用なこと、が示唆された。
- 関連論文 (2018/08/07追記):"FANCA Promotes DNA Double-Strand Break Repair by Catalyzing Single Strand Annealing and Strand Exchange" Benitez A, Liu W, Palovcak A, Wang G, Moon J, An K, Kim A, Zheng K, Zhang Y, Bai F, Mazin AV, Pei XH, Yuan F, Zhang Y. Mol Cell. 2018 Jul 23.
- 関連crisp_bio記事:2018-7-24 奥が深いCas9によるDSBからのdsDNAの修復結果と修復過程を探る
2. ペアワイズ・ライブラリー・スクリーニングにより、ヒト細胞におけるStaphylococcus aureus Cas9の特異性を探った
- [出典]"Pairwise library screen systematically interrogates Staphylococcus aureus Cas9 specificity in human cells" Tycko J [..] Wilson CJ, Hsu PD. Nat Commun 2018 Jul 27. (bioRxiv 2018-02-22)
- 小型のSaCas9をAAVで送達するゲノム編集療法は前臨床試験では成果をあげているがヒトに展開するにはオフターゲット作用の厳密な検証が必要である。
- Editas Medicineを中心とする研究チームは今回、スペーサー/gRNAと標的配列をペアにし、コンストラクトの品質管理用ランダム化バーコードとペアワイズコンストラクトの同定用誤り訂正ハミング符号用配列を加えたコンストラクト(下図 Fig. 1-a)参照)を、レンチウイルスでHEK293細胞へ送達し、SaCas9のオンターゲットおよびオフターゲットの編集結果を網羅的に検証した(下図 Fig.1-b)参照)。
- 73グループのsgRNAsについて88,692組のsgRNA-標的配列ペアを用意(sgRNA全てについて1塩基ミスマッチと2塩基ミスマッチの標的配列を組み合わせ、一部のsgRNAグループについては一塩基挿入・欠失の標的配列も組み合わせ)
- オンターゲット効率は21-ntと22-ntのスペーサーが高い
- ミスマッチへの寛容度は21-ntスペーサーが最も高く、20-ntスペーサーが最も非寛容
- 今回得た実験データを元に、非線形回帰モデルによるSaCas9の特異性スコアを導出
3. [レビュー]多用途ゲノム工学技術によるゼブラフィッシュにおけるヒト眼疾患研究の進展
- [出典]"Versatile Genome Engineering Techniques Advance Human Ocular Disease Researches in Zebrafish" Zheng SS, Han RY, Xiang L, Zhuang YY, Jin ZB. Front Cell Dev Biol 2018 Jul 12;6:75.
- 第3世代アンチセンスとも言われるモルフォリノ(MO)技術による遺伝子ノックダウンによって眼疾患のゲノミクスが進み始めたが、続いて、ZFNsとTALENsによりMOの弱点が克服され、さらに、CRISPR/Cas9によって効率化が進んだ。この技術開発に伴うゼブラフィッシュをモデルとする眼疾患研究の進展(下図 Figure 1参照)をレビュー
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