[出典]"Dynamic interplay between enhancer–promoter topology and gene activity" Chen H, Levo M, Barinov L, Fujioka M, Jaynes JB, Gregor T. Nat Genet. 2018 Jul 23.
- [背景1] エンハンサーは発生に必須の遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている。ヒトには、ゲノム解析から、20万から100万を超えるエンハンサーが存在するとされている。エンハンサーの多くは、その制御の対象とするプロモーターから遺伝的距離が遠く離れた領域に位置する。ショウジョウバエゲノムのようなコンパクトなゲノムであっても、エンハンサーの少なくとも30%が20 kb以上離れたプロモーターと、その中間に位置する遺伝子群を超えて、相互作用する。
- [背景2] 複雑で精緻な遺伝子調節の仕組みの中でもこの長距離相互作用が由って来る分子機構は、3世紀にわたる研究を経ても解かれていない課題である。FISHやクロマチン・コンフォメーション・キャプチャ(3C)技術によって、エンハンサーとプロモーターの物理的相互作用を示すデータが蓄積されてきてはいるが、一時的な接触と安定したトポロジーを形成する機構やトポロジーと転写の間の因果関係を解き明かすに必要なダイナミックな相互作用を示すデータは乏しい。
- プリンストン大とトーマス・ジェファーソン大の研究チームは今回、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術も利用した多色標識により、ショウジョウバエ胚の発生過程in vivo1細胞レベルで、エンハンサーとその標的のプロモーターの位置関係を追跡し、同時に、転写活性もモニター可能とする手法を開発し、遺伝子調節機構について新たな知見を得た。
- ショウジョウバエのeven-skipped (eve)遺伝子座から上流へ-142 kbの位置にレポーターを配置;この領域には、細胞性胞胚における7本のストライプの発現をドライブする5種類のエンハンサーが存在
- 三色可視化:[オスのeve遺伝子座の改変] 内在eveエンハンサーにCRISPRゲノム編集によりMS2ステムループ導入;eveの上流-142kbに配置するレポーター・カセットは、eveプロモーターの上流にeve遺伝子座の3'末端に位置する内在homieとの対合による安定なループ形成を誘導するために、368 bpのインスレーターエレメントhomieをセットし、eveプロモーターの下流にPP7ステムループをセット、さらに、転写活性に依存しないマーカ用としてBurkholderia parS DNA配列をセット(parS-homie-evePr-PP7);[蛍光コートタンパク質を発現させたメスとの交配] オスeve遺伝子座改変にそれぞれに対応するMCP-mBFP2 (MS2)、PCP-mKate2 (PP7)、ParB-EGFP (parS)を発現するメスと交配 (原論文 Fig. 1参照);三色タイムラプス共焦点蛍光顕微鏡で観察
- トポロジカル・コンフォメーション3状態を同定し、状態間の遷移モデルも構築・解析:エンハンサーとプロモーターが離れている状態;インスレーターの対合により両者が接近('within range')しているが、転写が進行していない状態;両者が近接し転写が進行している状態
- 'hit-and-run'モデルは成立しない:エンハンサーとプロモーターが物理的に接触することで転写が始まり、エンハンサーが遊離すると転写が止まり、転写進行中はエンハンサーとプロモーターが遊離することはない
- 転写の進行がトポロジカル・コンフォメーションに作用する:インスレーターが対合したトポロジーを安定化し、トポロジーをよりコンパクトにする
- 共通のエンハンサーでドライブされる内在eveの転写とレポーター遺伝子の転写が競合する:レポーター遺伝子の転写が共存する細胞ではeveの転写が5%-20%低減し、表現型にも影響
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