1. [News & Views]Cas9はオンターゲットに想定外の損傷を与える
2. バイスタンダー活性とオフターゲット活性を最小限にとどめたAPOBEC3A-Cas9による1塩基編集(BE)
  • [出典]"An APOBEC3A-Cas9 base editor with minimized bystander and off-target activities" Gehrke JM, Cervantes O, Clement MK, Wu Y, Zeng J, Bauer DE, Pinello L, Joung JK. Nat Biotechnol. 2018 Jul 30.
  • CRISPR-Cas9を利用してシチジンデアミナーゼの活性を特定の遺伝子座に作用させるBEは、シチジンからチミジン(C-to-T)への精密変換を実現し、BEの拡充と応用が進んでいる。しかし、BEは、シチジンデアミナーゼの編集対象領域(5塩基対ウインドウ)内に1つ以上のCが存在する場合は、想定外のC-to-T置換が発生するバイスタンダー置換の問題を抱えていた。
  • J Keith Joungらの研究チームは今回、ラット由来のAPOBEC1に替えて、変異導入によりヒトAPOBEC3A(A3A)から最適化したシチジンデアミナーゼ (eA3A)を利用することで、特定の配列モチーフ内のCを優先的に脱アミノ化する手法eA3A-BE3を実現した。具体的には、3種類のモチーフの中で、VCN<TCY<TCRの順に脱アミノ化の優先順位が高くなる。
  • ヒト細胞においてBE3とeA3A-BE3による編集を比較し、TCモチーフ内のCの置換活性は同等であったがその他の配列中のCの置換がeA3A-BE3で大きく低減することを見出した。βサラセミアにおけるプロモーター変異の修復精度で比較すると、eA3A-BE3はBE3の40倍を超える精度を実現した。オフターゲット編集もまた、eA3A-BE3で低減した。
  • eA3A-BE3は、モチーフの縛りがあることでゲノム上の標的可能領域が狭められる弱点があるが、多様なBEの併用により結果的に解決すると見ている。
  • 関連crisp_bio記事:2017-09-05 塩基編集法(BE)第4世代へ:BE1, BE2, BE3からBE4へ - 望ましくない変換の発生とその原因究明
  • [注]bioRxiv投稿分をcrisp_bio記事「CRISPRメモ_2018/03/03 5.ヒトAPOBEC3Aの利用による高精度CRISPR-Cas9塩基編集 (BE)法を開発:バイスタンダー変異とオフターゲット変異を最小限に留めた」にて紹介
3. タイプIII CRISPRのセカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択分解のオフ・スイッチを同定
  • [出典]"Ring nucleases deactivate Type III CRISPR ribonucleases by degrading cyclic oligoadenylate" Athukoralage JS, Rouillon C, Graham S, Grueschow S, White MF. bioRxiv 2018 Jul 30; Nature. 2018 Oct 11;562(7726):277-280. Online 2018-09-19.
  • タイプⅢ CRISPRシステムは、Cas10とCsm2/3/4/5の複合体によるウイルスDNAの非選択的切断とDNAから転写されたRNAのcrRNA依存選択的切断に加えて、セカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択的分解の機構を備えている。すなわち、標的RNAの結合によって活性化したCas10のサブユニットPALM/cyclaseドメインがATPからサイクリックオリゴアデニル酸(cOA)を合成し、このcOAがセカンドメッセンジャーとしてCsm6のCARF (CRISPR associated Rossman Fold)ドメインに結合することで、Csm6/Csx1によるウイルスRNAの非選択的切断が進行する(参照:CRISPRメモ_2017/08/07 3. バクテリアの獲得免疫機構におけるセカンドメッセンジャー発見)。
  • セントアンドリュース大学の研究チームは今回、Sulfolobus solfataricus をモデルとして、cOAを介したRNAの非選択的切断パスウエイのオフ・スイッチの存在と機構を明らかにした。ウイルスRNAの分解が完了するとcOAの合成が止まるが、それまでに合成されたcOAを分解し、このパスウエイを終結させるヌクレアーゼを同定し'RING nucleases'と命名した (下図中央 参照)。
cOA
  • 関連crisp_bio記事:CRISPRメモ_2018/05/09-1 1. Staphylococcus epidermidis由来Csm3とCsm6のリボヌクレアーゼ活性の構造基盤;CRISPRメモ_2017/08/07 3. バクテリアの獲得免疫機構におけるセカンドメッセンジャー発見
4. コモンマーモセットES細胞ゲノムの全ゲノム・ハプロタイプフェージング解析:ヒト疾患細胞モデル構築の基盤に
  • [出典]"Haplotype-phased Callithrix jacchus embryonic stem cell line for genome editing using CRISPR/Cas9" Zhou B [..] Urban AE. bioRxiv 2018 Jul 30.
  • スタンフォード大学、ウイスコンシン・マディソン大学などの共同研究チームは、ヒト疾患モデルとして有用なコモンマーモセットの胚性幹細胞株(ESC line)cj367(Wisonsin国立霊長類研究センター由来)を対象として、ハプロタイプごとのSNVsとindelsの検出を伴う全ゲノム解析を実行した。
  • 続いて、ハプロタイプ情報に基づいて、cj367ESCにおけるCRISPRのアレル特異的標的サイトのリストを整備した。その上で、多能性を損なうことなくdCas9の発現と標的局在化が可能なことを確認した。また、ESCsを迅速かつ1段階で、機能する神経細胞への分化を誘導可能なことも確認した。