[出典]"Amyloid clearance defect in ApoE4 astrocytes is reversed by epigenetic correction of endosomal pH" Prasad H, Rao R. PNAS 2018 Jul 10. Online  Jun 26;"pH Imbalance in Brain Cells May Contribute to Alzheimer’s Disease" Johns Hopkins Medicine News 2018 Aug 2. .
  • アルツハイマー病 (AD)の病因としてエンドソームが注目されている。アミロイド斑や認知機能低下に先立つ数十年前、神経変性の最初期に現れる脳細胞の病理は、エンドソーム・コンパートメントのサイズの拡大と増加である。一方で、アポリポタンパク質Eのε4アレル (ApoE4)が、孤発性のADの遺伝的危険因子として知られていたところ、先行研究で、ApoE4に拠って、エンドソームそしてアミロイドβ(Aβ)のエンドサイトーシスによるクリアランスが不全に陥ることが示された。ジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームは今回、エンドソームのpHとAβクリアランスが相関することおよびその分子機構を明らかにした(参考:ApoE3/ApoE4とpHの相関モデル図、Hopkins Med Newsツイートからの引用)。
  • ApoE4アストロサイトにおけるエンドソームの過度な酸性化を介して、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質 1 (LRP1)が細胞表面から細胞内区画へと隔離され、LRP1の細胞表面での発現が消失し、ひいてはAβのクリアランスが不全となる。
  • エンドソームの病理的酸性化は、ε4リスク・アレル選択的ナトリウム水素交換輸送体6 (Na+/H+ exchnger 6, NHE6) の下方制御に起因し、NHE6をノックアウトしたマウスモデルの脳でAβ量が増加することも観察した。
  • [補足] 細胞内のpH調節:プロトンポンプによるプロトン取り込みとNHEによるプロトン排出のバランスで調節され、NHE6は細胞小器官エンドソームの膜で機能し、エンドソームからプロトンを排出する役割を担っている。
  • 非病原性のApoE3アレルを帯びたアストロサイトに比較して、ApoE4アストロサイトではヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)の核移行が亢進しており、NHE6の下方制御がエピゲノム修飾を介した転写抑制によることが示唆された。また、HDAC阻害剤によってNHE6発現が回復し、エンドソームのpHとLRP1の細胞膜への輸送が正常化し、アミロイドのクリアランスも回復した。
  • NHE6はApoE4の下流に位置するエフェクターでありADやNHE6をコードする遺伝子SLC9A6の変異が病因であるクリスチャンソン症候群の有力な治療標的である。