1. 新たなCas9変異体をRNP複合体として送達する高精度で高活性な遺伝子編集法を開発し、ヒト造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)で実証
[出典] "A high-fidelity Cas9 mutant delivered as a ribonucleoprotein complex enables efficient gene editing in human hematopoietic stem and progenitor cells" Vakulskas CA [..] Porteus MH, Behlke MA. Nat Med. 2018 Aug 6.

背景
  • ヒト疾患療法へのCRISPR-Cas9システムの展開が期待されているが、編集の精度が未だ解決すべき課題であり、特に、幹細胞集団のゲノム編集に大きな課題となっている。
  • これまで、Cas9変異体利用やCRISPR-Cas9システムをRNPとして送達し、Cas9の恒常的活性を回避することで、それぞれ、編集精度向上が実現されてきた。しかし、これまでの立体構造情報に基づいて設計・作出された高精度Cas9変異体は、RNP送達で編集効率が顕著に低下する課題を抱えていた。
成果
  • Integrated DNA Technologies, Inc, Stanford Uなどの米国研究チームは今回、立体構造情報に基づいて設計する手法を取らず、RNP送達によっても高精度と高活性を示す新たなCas9変異体を作出した。
  • 研究チームは、HEK293細胞にRNPとして送達した場合の、WT Cas9とこれまでに設計・作出された高精度Cas9変異体のうちeSpCas9(1.1)(p.K848A/p.K1003Ap/R1060A)とSpCas9-HF1(p.N497A/p.R661A/p.Q695A/p.Q926A)オンターゲット/オフターゲット編集を評価し、高精度Cas9変異体のオンターゲット編集効率がほぼ全ての場合についてWT Cas9から大きく低減することを確認した。
  • GeneMorph IIランダム変異導入キットを利用して作出したCas9 ORF変異ライブラリー~250,000クローンから、オンターゲット・プラスミドとオフターゲット・プラミドの切断を指標とするスクリーニング(原論文Fig.2-a 参照;引用論文 27, 31, 32/本記事項目2のLeeらのNat Commun論文でも引用)と、HEK293細胞による単一、二重、三重変異体の評価などを経て、HiFi Cas9 (R691A)に達した。
  • HiFi Cas9と予備実験で評価したeSpCas9(1.1)とSpCas9-HF1およびHypaCas9 (p.R692A/p.M694A/p.Q695A/p.H698A)のRNP送達による編集効率をHEK293のHPRT遺伝子座12サイトにて評価し、それぞれ、82%、20%、2%、1.7%という結果を得た。HiFi Cas9はまた、恒常的な発現・活性状態でも、RNP送達による一時的活性状態でも。オフターゲット編集を大きく低減した。
  • HiFi Cas9により、CD34陽性ヒトHSPCおよびヒト初代T細胞において、ヒト疾患に関連する遺伝子座の相同組み換え
  • 修復過程を介した遺伝子編集を実現した。また、HiFi Cas9によって、鎌状赤血球症患者由来のHSPCsにおける病因変異p.E6Vを修復した。オフターゲット編集はWT-Cas9の場合の20分の1にまで低減した。
2. 指向性進化法 (directed evolution)によりCRISPR-Cas9の精度を高めた"Sniper-Cas9"を開発
[出典] "Directed evolution of CRISPR-Cas9 to increase its specificity" Lee JK, Jeong E [..] Kim JS. Nat Commun 2018 Aug 6. (bioRxiv 2017-12-19)

背景
  • オフターゲット作用がCRISPR-Cas9の臨床応用に対する壁となっている。これまでにWT-Cas9の立体構造情報を手がかりにしてWT Cas9よりも高精度なSpCas9変異体(eSpCas9; Cas9-HF)が設計・作出されてきたが、こうしたいわばDNAとの相互作用を減弱したCas9変異体は、ヒト細胞において臨床応用には不十分な編集効率を呈していた。
  • Toolgen、IBSおよびソウル国立大学の韓国研究チームは今回、大腸菌をプラットフォームとする指向性進化法に基づくSniperスクリーン法を構築し、ヒト細胞においてオンターゲット編集効率を犠牲にすることなくオフターゲット作用を最小限に止めるCas9変異体、Sniper-Cas9、を作出した。
Sniperスクリーン法
  • 原論文Fig.1 a/bから引用した下図参照;先行研究(原論文引用論文 10, 11, 12/本記事の項目1のVakulskasらのNature論文でも引用);韓国チームは、E. coli BW25141ゲノムにヒトEMX1遺伝子フラグメントを帯びた500-bpのPCR産物をトランスポザーゼを介して挿入したBW25141-EMX1株を作出 (下左図参照)、ccdB毒性遺伝子とミスマッチ配列の誘導性発現プラスミドとsgRNAの誘導性発現プラスミドで形質転換し (下右図参照)、Sniper-Cas 1 Sniper Cas9
    3種類のキットで作出したCas9変異体から出発しDNAシャフリングも交えた変異体をエレクトロポレーションし、スクリーンし、Sniper-Cas9 (下図参照) を選別 (項目1のHiFi Cas9 (R691A)とは異なる変異体)。Sniper-Cas 3
Sniper-Cas9の特徴
  • Sniper-Cas9は、オンターゲット編集効率とオフターゲット編集抑制において、eSpCas9 (1.1), Cas9-HF1, evo-Cas9、Hypa-Cas9およびxCas9–3.7よりも優れた特性を示した。
  • また、Sniperを組み込んだSniper-BE3は、他のWT-Cas9や他の高精度Cas9を組み入れたBE3よりも優れた特性を示した。
  • さらに、ヒト初代T細胞とヒトiPSCにおいて、RNP送達によるAAVS遺伝子を標的とする遺伝子編集した結果の比較から、Sniper-Cas9が唯一WT-Cas9レベルのオンターゲット編集活性を示し、また、WT-Cas9よりもオフターゲット編集が抑制されることを見出した。

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