[出典]"Developmental barcoding of whole mouse via homing CRISPR" Kalhor R, Kalhor K, Mejia L, Leeper K, Graveline A, Mali P, Church GM. Science 2018 Aug 9.
概要
- K. Kalhor , P. MaliならびにG. M. Churchは2016年に、Cas9が誘発するDSBからのNHEJ修復がもたらすランダムな遺伝子変異を蓄積していくa homing guide RNA (hgRNA)*遺伝子座を創案し、新たな細胞系譜解析技術を確立していた。研究チームは今回hgRNAsを利用して、受精から成体に至るマウス成体全細胞の系譜再構築を実現した;*) 創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016年度閲覧回数7位 - 1. [IN DEPTH] 細胞にバーコードを埋め込む;4. [論文] 細胞バーコード:hgRNA (homing guide RNA);"Rapidly evolving homing CRISPR barcodes" Kalhor R, Mali P, Church GM. Nat Methods. 2017 Feb;14(2):195-200. Online 2016-12-05 (bioRxiv 2016-12-01).
詳細
- はじめに、PiggyBac hgRNAライブラリーをトランスポーズしたマウスES細胞を胚盤胞インジェクションし、サロゲート・マウスに移植することで、hgRNAs遺伝子座を帯びたマウス群を作出し、hgRNAsを最も多数帯びたマウスをファウンダーとして選抜し、MARC1 (Mouse for Actively Recording Cells)と命名。
- 次に、全染色体 (chr1-chr19とchrX, Y)に分散配置された60種類のhgRNAsを帯びたMARC1を、Rosa26にSpCas9をノックインしたマウスと交雑し、受精後から細胞分裂を繰り返すごとにCas9によるDSBとその修復結果としてhgRNAsに蓄積されていくランダムかつユニークな遺伝子変異をバーコードとして、マウス全細胞の系譜をi追跡・再構築した (原論文 Figure 1 参照)。
- MARC1 hgRNAsの中で活性な41種類から理論的には10の74乗種類のバーコードが生成可能である。hgRNAsは、E3.5までに80%がE8.5までにほとんどの細胞で変異する"fast"、成体時に至っても変異を帯びた細胞が少数である"slow"、それらの中間"mid"に分類可能であったが、観察された変異アレルの数から5種類の"fast"と5種類の"mid"のhgRNAsの組み合わせだけによっても、10の23乗の種類のバーコードが生成される。このバーコードの規模は、ほぼ〜10の10乗種類のマウス全細胞一つ一つのバーコードに、さらに、二分木での発生過程を仮定すると、〜2x10の10乗のノードの同定に十分な規模である。
- hgRNAsのバーコード群を類似性(マンハッタン距離)でクラスター分析した結果から再構築した細胞系譜は、発生初期の分化過程*を再現した:*) 受精卵の初期発生段階で卵割によって生じる各細胞は、E3.5までに栄養芽層 (trophectoderm)と内部細胞塊 (inner cell mass, ICM)へと分化し、ICMはE4.5までに原始内胚葉 (primitive endoderm)と胚盤葉上層 (epiblast)に分化し、E12.5で前者は遠位内胚葉(parietal endoderm)と近位内胚葉 (visceral endoderm)へ分化し、後者は心臓や四肢の原基になる。
- 今回の細胞系譜解析の結果から、脳のパターン形成過程について新たな知見を得た。これまで、原腸陥入(E6.5)時に神経系と前駆体のパターン形成が始まり、E8.5までに前後軸と左右軸のパターンが形成されることが明らかにされていたが、前後軸と左右軸のパターン形成の順は不明であったが、前後軸が形成された後に左右軸が形成されることが示唆された。
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