1. ヒト抗体の重鎖ノックインマウスをCRISPR/Cas9により1ステップで迅速作出
  • [出典]"One‐step CRISPR/Cas9 method for the rapid generation of human antibody heavy chain knock‐in mice" Lin YC, Pecetta S [..] Batista FD. EMBO J. 2018 Aug 7.
  • Ragon Institute of MGHなどの研究チームの成果;相同組換え用テンプレートとして、ヒトB細胞受容体 (hBRC)の重鎖(HIV-1患者由来広域中和モノクローナル抗体の重鎖)配列とリーダー領域、相同組換え用の3.9-kbの5'末端相同アームと2.6-kbの3'末端相同アームおよびマウスVHJ558プロモーターとからなる二本鎖DNA断片を使用
  • テンプレート、1対のsgRNAsならびにCRISPR-/Cas9をC57BL/6マウス接合子に送達し、相同組換え修復過程を介して、受精卵母細免疫グロブリンIgH遺伝子座D-J領域にPGT121‐gHまたはBG19-gHをノックイン (KI)した系統を3週間で樹立;相同組み換え効率は30-50%であったが、PGT-121-gHは骨髄からは除去されBG12-gHは有効
  • 今後、1対のsgRNAsを利用する相同組み換え法で、軽鎖KIマウスの樹立および重鎖と軽鎖の双方のKIマウスの1ステップ作出を目指す。
2. ヒト初代ケラチノサイトのCRISPR/Cas9ゲノム編集により、紫外線B波(UVB)センシングにおけるNLRP1インフラマソームの決定的機能が明らかに
  • [出典]"Genome editing of human primary keratinocytes by CRISPR/Cas9 reveals an essential role of the NLRP1 inflammasome in UVB sensing" Fenini G, Grossi S, Contassot E, Biedermann T, Reichmann E, French LE, Beer HD. J Invest Dermatol. 2018 Aug 7.
  • U. Zurichと大学病院の研究チームの成果;皮膚の炎症、老化、癌の誘因であるUVBは、ヒトケラチノサイトの免疫応答を誘導し、インフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体を介して、炎症性サイトカインのproIL-1βと-18の活性化と分泌を促す。この過程の中で、UVBのセンシング、特に、サイトカインの分泌に必要なインフラマソームのタイプについては議論が分かれていた。CRISPR/Cas9スクリーンから今回、NLRP3ではなくNLRP1インフラマソームが、ケラチノサイトによるUVBセンシングとIL-1β/-18の分泌の必須因子であることを同定した。
3. CRISPR/Cas9によるKRAS発癌性アレルの選択的ターゲッティングが、癌細胞増殖を阻害する
  • [出典]"Selective targeting of KRAS oncogenic alleles by CRISPR/Cas9 inhibits proliferation of cancer cells" Lee W, Lee JH, Jun S, Lee JH, Bang D. Sci Rep. 2018 Aug 8;8(1):11879.
  • ヒト癌のほぼ25%にRAS遺伝子の変異が見られ、RASタンパク質ファミリーの発癌性変異の85%がKRAS変異である。これまでにKRASの下流に位置するタンパク質を標的する抗癌剤は数種類認可されているが、KRAS変異遺伝子を直接標的とする療法は未だ認可されるに至っていない。
  • 延世大学校と慶熙大学校の研究チームは今回、KRASのコドン12上のPAMに隣接するシード領域に位置する2種類の1塩基ミスセンス変異*を標的とするsgRNAsによるCRISPR/Cas9遺伝子編集を試み、Cas9とsgRNAsをレンチウイルスで送達した癌細胞において、シード領域にindelsが高頻度で発生し、癌細胞の生存性が低減されることを示した。
  • *)KRASタンパク質にそれぞれG12VおよびG12Dアミノ酸置換をもたらすc.35 G>Tおよびc.35 G>Aの1塩基置換;それぞれ膵臓癌の30%と51%、および、大腸癌の27%と45%に見られ、予後不良と相関
4. [ミニレビュー]アルツハイマー病(AD)療法としてのCRISPR/Cas9遺伝子編集の可能性
  • [出典]"The Potential of CRISPR/Cas9 Gene Editing as a Treatment Strategy for Alzheimer’s Disease" Rohn TT, Kim N, Isho NF, Mack JM (Boise State U). J Alzheimers Dis Parkinsonism. 2018 May 31
  • ADとCRISPR/Cas9の基礎;CRISPR/Cas9によるハンチントン病変異遺伝子修復の試み;早期発症型ADモデルと孤発性ADモデルでのCRISPR/Cas9遺伝子編集例。
5. CRseek:CRISPR-Cas実験戦略の設計を支援するPythosモジュール
  • [出典]"CRSeek: a Python module for facilitating complicated CRISPR design strategies" Dampier W, Chung CH, Sullivan NT, Andrew J Atkins AJ, Nonnemacher MR, Brian Wigdahl B. PeerJ 2018 Aug 6.
  • Pythonのオープンソース機械学習ライブラリであるscikit-learnをミラリングしたPythonライブラリであり、SpCas9以外のCasエフェクターについてのsgRNAs設計も可能にしたツール;Ananconda環境でインストール可能
6. CRISPR/Cas9ゲノム編集による植物における翻訳調節
  • [出典]"Genome editing of upstream open reading frames enables translational control in plants" Zhang H, Si X, Ji X, Fan R, Liu J, Chen K, Wang D, Gao C (Chinese Academy of Sciences). Nat Biotechnol. 2018 Aug 6.
  • 遺伝子転写後の翻訳調節の観点から、CASの研究チームは今回、mRNA/タンパク質へと翻訳されるORF(primary ORF; pORF)の上流5'UTR(リーダー配列)に位置する配列(upstream ORFs; uORFs)に注目;uORFsは真核生物の遺伝子に共通に存在し、ヒトとマウスの転写物のそれぞれ49%と44%に1~2のuORFsが存在;シロイヌナズナ、トウモロコシおよびイネを含む11種類の植物では、転写物の〜30%から40%以上にuORFsが存在;uORFsの開始コドンはATGとnon-ATGの双方;
  • 発生に重要な4種類のpORFs(AtBRI1, AtVTC2, LsGGP1ならびにLsGGP2.AtBRI1)で検証し、
  • uORFの開始コドンを帯びた領域を標的とするsgRNAにより多重変異導入とmRNA量の変化を実証;レタスにおいてビタミンC生合成鍵酵素遺伝子LsGGP2のuORF編集により、酸化ストレス耐性が向上し、アスコルビン酸量が~150%増加
7. 胚研究における14日ルールを28日ルールへ改変すべきか?
  • [出典]"Should the 14‐day rule for embryo research become the 28‐day rule?" Appleby JB (Lancaster U), Bredenoord AL (U Medical Center Utrecht). EMBO Mol Med. 2018 Aug 7.
  • ヒト胚の研究は発生から14日までに制限されていたが、発生学やCRISPR/Cas9ゲノム編集技術開発を含む生物医学研究が進展すると共に、14日ルールに対する疑義が生まれてきた。著者らは、28日(または28日齢の胚と同等な発生段階)への延長を、科学、規制および倫理の観点から議論。
  • 14日ルールが生まれた背景:体外受精の初期にin vitroで胚を維持する限界が受精から14日であった;生物学的には15日齢で原始線条が形成され原腸陥入開始し、以後は双子にはなり得ない;1982年のWarnock Committeeの提言以来14日ルール各国に徐々に普及;一方で、近年、14日以後の胚研究が技術的には可能になった。
  • 14日ルール改変に対する反対意見;14日を延長する論拠;倫理・政策・規制