2020-07-30 第1項目のbioRxiv 2018-08-09投稿が、Science Reportsから刊行されたことから、Science Reportsへのリンクを追加

1. GWASから得られる候補遺伝子の表現型との因果関係をゼブラフィッシュモデルで同定可能とするパイプラインを、CRISPR-Cas9遺伝子変異誘発と画像の自動処理技術により構築
  • [出典]"Translating GWAS-identified loci for cardiac rhythm and rate using an in vivo, image-based, large-scale genetic screen in zebrafish" von der Heyde B [..] den Hoed M. bioRxiv 2018 Aug 9. > Sci Rep 2020-07-16 
  • GWASで同定されたヒト候補遺伝子座から疾患原因遺伝子を同定する大規模な実験検証が行われるのは稀である。最近、心拍変動 (heart rate variability; HRV)について、53,174人のGWASから8種類の遺伝子座が同定されたが、各遺伝子の機能同定実験は未だ行われていない。
  • ウプサラ大学を始めとするスエーデン・オランダ・米国の共同研究チームは、ゼブラフィッシュの胚と幼生in vivoでHRVの候補遺伝子を体系的に特徴付けるパイプラインを、CRISPR-Cas9技術と画像処理技術により組み立てた。
  • 6種類のヒト候補遺伝子を取り上げて、相当するゼブラフィッシュ相同遺伝子9種類を標的とするCRISPR-Cas9による変異誘発と、受胎後2日の胚と受胎後5日の幼生における心房動画 (30秒間)の自動解析により、心拍変動、心拍数、洞房伝導、心臓の発生およびサイズに影響を与える一連の遺伝子群を同定した。
2. 外来DNAの変異がタイプI CRISPR-Casシステムのプライム型スペーサ獲得に及ぼす影響
  • [出典]"Role of nucleotide identity in effective CRISPR target escape mutations" Künne T [..] Brouns SJJ. Nucleic Acids Res. 2018 Aug 11.
  • バクテリアとアーケアにおけるCRISPR-Cas獲得免疫機構は、adaptationexpressionおよびinterferenceの3ステージで構成されている。Cas1-2複合体によって初めて侵入してきた外来DNAから新規スペーサを獲得しCRISPRアレイに組み込み (adapation)、ATリッチなリーダ配列から始まるCRISPRアレイ全体から転写された長いpre-crRNAがそれぞれスペーサーを一個帯びたcrRNAsが生成され(expression)、タイプI CRISPR-CasシステムにおいてはcrRNAがCas9タンパク質と形成するCascade複合体がcrRNAに相補的配列を探索し切断し(interference)、侵入DNAに対する免疫が実現される。これに対して、ウイルスはスペーサが由来したプロトスペーサまたはPAMに変異を誘発する事で、CRISPR-Casシステムの免疫を回避する。このため、宿主細胞は免疫を回復するために新たなスペーサを獲得する必要がある。
  • タイプIシステムのいくつかのサブタイプは、CRISPR-Cas免疫を回避したプロトスペーサを認識し排除できない場合に新たなスペーサの迅速獲得を実現するプライム型スペーサ獲得(以下、priming)機構を備えている。通常のスペーサ獲得(naïve acquisition)はcas1cas2を介して実現されるが、プライム型獲得は全てのcasと標的スペーサを必要とする。
  • Wageningen大学を始めとするオランダ・米国の研究チームは先行研究で、プロトスペーサにおける変異の数と位置がinterferenceprimingに影響を与えることに加えて、プロトスペーサの個々の変異(A, C, GまたはT)がprimingに大きな影響を及ぼす事を見出していた。プロトスペーサの標的鎖におけるシトシン置換はprimingを促進するが、グアニン置換はprimingを抑制し、アデニン置換とチミン置換はそのような傾向を示さない。すなわち、単なるプリン (AとG)とピリミジン(TとC)の差異よりも複雑な機構の存在が示唆された。
  • 研究チームは今回、CとGの変異が、標的の分解速度(interference活性)を変えることで、primingに影響を与える事を見出した。全体としてinterferenceに対して変異の位置が最も影響が大きく、同一位置での塩基置換においてG置換はinterferenceを最も強く抑制しCasタンパク質の中のCas3ヘリカーゼ・ヌクレアーゼによる侵入DNA分解を阻害する。このG置換依存性は、G置換がもたらす立体障害を介して標的のコンフォメーションが歪み、標的鎖にG置換変異を帯びた標的DNAとCascadeとの結合親和性が大きく低減することに起因する(原論文Figure 5から引用した下図参照)。Guanine mismatches
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3. C. elegansのヌル変異体を効率的に作出するゲノム編集戦略
  • [出典]"An efficient genome editing strategy to generate putative null mutants in Caenorhabditis elegansusing CRISPR/Cas9" Sternberg PW, Wang H, Park H, Liu J. bioRxiv 2018 Aug 13.
  • 本ゲノム編集戦略では、CRISPR/Cas9と短いssDNAオリゴ修復テンプレートにより、標的遺伝子の前方エクソン(exons)に、3種類の読み枠全てにstopコドンを埋め込んだ43-ntの長さのstopノックイン(STOP-IN)カセットを挿入し、フレームシフトを誘起する。STOP-INカセットはまた、外来Cas9の標的サイトも組み込み、野生型ssDNA修復用オリゴを介した野生型への復元を可能とした。
  • 21遺伝子にSTOP-INカセットを挿入し、それぞれのヌル・アレルに相当する表現型変異を同定した。
4. Cas9を介したアレル交換法により、マウスにおいて複合ヘテロ接合体劣性突然変異を修復する
  • [出典]"Cas9-mediated allelic exchange repairs compound heterozygous recessive mutations in mice" Wang D [..]  Zamore PD, Xue W, Gao G. Nat Biotechnol. 2018 Aug 13.
  • CRISPR-Cas9とDNAテンプレートを送達することでHDRを介して病因DNA変異を修復することが可能になったが、多くの単一遺伝子劣性遺伝病は遺伝子全域にわたる多数の変異に起因することから、その修復には多様なDNAテンプレートを外部から送達することが必要になる。例えば、FAH遺伝子における95種類の変異が遺伝性高チロシン血症I型(hereditary tyrosinemia type 1; HT1)を発症する。
  • University of Massachusetts Medical Schoolの研究チームは今回、DNAテンプレートの送達を不要とする変異遺伝子修復法を開発し、HT1モデルマウスとムコ多糖症I型(MPS-I)モデルマウスを作出し、アレル交換法が有効な事をモデルマウスで実証した。