[出典]"Fabrication of biomimetic placental barrier structures within a microfluidic device utilizing two-photon polymerization" Mandt D, Gruber P, Markovic M [..] Ovsianikov A. Int J Bioprint. 2018 Jul 3.

背景
  • 胎盤は、胎盤関門 (placental barrier)により胎盤母体血液と胎児血液を常に分離しつつ、胎児と母体の間で然るべき分子の輸送を制御する胎児の発生と生育に必須の一時的器官である (下図'Scheme of placental circulation'参照)。Placenta1
    ヒト胎盤のin vivo実験は不可能であり、この多面的器官のin vitroでのモデリングもこれまで実現しておらず、胎盤研究は生物医学における大きな課題の一つである。
概要
  • 高精度な3次元プリンティングによる生体モデル開発に取り組んできたウィーン工科大学 (TU Wien)の研究チームはゲント大学などと共同で今回、分子の経胎盤移行および発生へのその影響の多面的かつ再現性良いシミュレーションを実現するプラットフォーム開発を目指した。
胎盤関門モデル構築
  • 胎盤関門構築には、二光子光重合(two-photon polymerization; 2PP)法に基づく高精細な3次元プリンティングを利用
  • コラーゲン由来ゼラチンの第1級アミンとカルボン酸をそれぞれメタクリルアミドとメタクリル酸メチルで修飾(GelMOD-AEMA)する事で、2PPによるゼラチン加工を実現
Placenta2 Placenta3
  • 上図左A(原論文 Figure 1引用)の模式図にあるマイクロ流体デバイスにおいて、断面が2つの'へ'の字型のチャンバー(上図左B参照)が交差する領域に、ハイドロゲルによる'関門'(上図左C参照)を形成 (このハイドロゲル構造体によって2つのチャンバーは半透性の関門で分離されるに至る)。
  • 続いて、胎児側と母体側を模すために、関門の両側にそれぞれ、ヒト臍帯静脈内皮(Human umbilical-vein endothelial cell;HUVEC)細胞とヒト胎盤から分離した絨毛癌細胞BeWo B30をそれぞ播種し、一定量の培養液で還流する事で細胞培養・細胞膜定着(上図左Dならびに原論文FIGURE 7から引用した上図右参照);GelMOD-AEMAをフィブロネクチンで被覆する事で細胞膜定着が向上。
実証実験と結論
  • 胎盤関門モデルを介した経細胞輸送(transcellular transport)プロセスを解析;高分子量の分子は非透過;グルコース程度の低分子量の分子は時間依存性で拡散透過
  • GelMOD-AEMAをベースに構築した胎盤関門モデルは、妊娠過程中に形状が連続的に変化する胎盤のシミュレーションに適した生体適合性と柔軟性(上図左Cの形状・サイズ可変)を備えている。