1. 塩基編集法BE3によりマルファン症候群(MFS)の病因FBN1変異をヘテロ接合型胚において修復(ヒト胚ゲノム編集)
  • [出典]"Correction of the Marfan Syndrome pathogenic FBN1 mutation by base editing in human cells and heterozygous embryos" Zeng Y [..] Liu J, Huang X. Mol Ther. 2018 Aug 14.
  • BE3により標的変異の完全な修復を89%の効率で実現;オフターゲット候補サイトのディープ・シーケンシングと全ゲノムシーケンシングにてオフターゲット編集非検出
  • HEK293T細胞に、CRISPR/Cas9とssODNを介して、病因変異T7498Cを生成し、このMFSモデル細胞で、修復を確認
  • インフォームドコンセントを得て入手した未成熟卵母細胞をin vitroで成熟させ、T7498C変異を帯びたMFS患者由来1精子で顕微授精させ、16-18時間後、接合子にBE3 mRNAとsgRNAを注入し2日間培養し、修復を確認
  • 関連crisp_bio記事:2017-10-07 疾走する中国CRISPR療法研究開発
2. SaCas9を介したゲノム断片欠損により、ジストロフィーのin vitroおよびin vivoモデルにおいて、ジストロフィン発現を回復
  • [出典]"CRISPR-induced deletion with SaCas9 restores dystrophin expression in dystrophic models in vitro and in vivo" Duchêne BL [..] Tremblay JP. Mol Ther. 2018 Aug 16.
  • bioRixv 2018 Jul 26 投稿 参照:CRISPRメモ_2018/07/29 - 1. SaCas9でジストロフィー・モデルにおけるジストロフィン発現を修復
3. i-GONADはラットの簡便なゲノム編集in vivoツールとしても有用
  • [出典]"i-GONAD (improved genome-editing via oviductal nucleic acids delivery), a convenient in vivo tool to produce genome-edited rats" Takabayashi S, Aoshima T, Kabashima K, Aoto K, Ohtsuka M, Sato M. Sci Rep. 2018 Aug 13.i-GONAD rat
  • マウス胚in vivoで1塩基置換を実現した簡便なゲノム編集法i-GONAT (improved genome-editing via oviductal nucleic acids delivery)*が、ラット (Sprague Dawley, Lewis, およびSDBrown NorwayのF1ハイブリッド)のin vivoゲノム編集で、indel変異効率~62%とノックイン効率~9%を実現 (原論文Figure 1を引用した上図参照)
  • *) CRISPRメモ_2018/03/04 1.i-GONAD:CRISPRヌクレアーゼによる安定したin situ生殖細胞ゲノム編集法
4. DNA損傷に誘導されるテロメア組み換えは、テロメアの伸長とテロメア長の不均一化をもたらす
  • [出典]"Telomeric Recombination Induced by DNA Damage Results in Telomere Extension and Length Heterogeneity" Liu H [..] Zhao Y. Neoplasia. 2018 Aug 14.
  • ヒト癌の~15%はテロメア欠損に対して相同組換え(homologous recombination, HR)に基づくテロメラーゼ非依存性テロメア維持機能(alternative lengthening of telomere, ALT)で対抗する。
  • ALTを欠損した293T細胞にて、CRISPR/Cas9システムによりDSBを誘起し、テロメアの応答を解析、テロメア姉妹染色分体交換(T-SCE)を介してテロメア長が不均一になり、非姉妹染色分体交換 (No-SCE)を介してテロメアが伸長することを見出した。
5. マウスのシステインリッチEGF様ドメイン2(CRELD2)の発現解析と機能解析
  • [出典]"Expression analysis and functional characterization of the mouse cysteine-rich with EGF-like domains 2" Oh-hashi K, Fujimura K, Norisada J, Hirata Y. Sci Rep. 2018 Aug 15.CRELD2
  • 岐阜大学の研究チームは先行研究で、主としてATF6に制御される新規小胞体ストレス応答因子CRELD2を発見していた。今回、マウス組織とNeuro2aマウス神経芽細胞腫細胞株においてCRELD2の発現と機能を解析
  • CRISPR/Cas9を介して(原論文Figure 6を引用した上図参照)CRELD2欠損Neuro2aマウス神経芽細胞腫を樹立し、小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシン(Tm)に対する応答が、通常のERストレス応答因子と異なり、CRELD2が、直接は相関しないが、CRELD2欠損が細胞のTmへの感受性を高めることも見出した。
6. 比較ゲノミクスから見たクラス2 CRISPR-CasシステムtracrRNAの進化
  • [出典]"Comparative genomics and evolution of trans-activating RNAs in Class 2 CRISPR-Cas systems" Faure G [..] Koonin EV. RNA Biol. 2018 Aug 14.
  • 微生物のCRISPR-Casシステムによる免疫応答では、CRISPRアレイに取り込まれていた外来DNA断片由来のスペーサからCRISPR(cr)RNAが生成され、crRNAがCasヌクレアーゼを標的配列へと誘導(ガイド)する(gRNA)。CRISPR-CasシステムのタイプⅡとサブタイプV-Bでは、crRNAに加えて、CRISPRアレイの反復配列と相補的なトランス活性化CRISPR(tracr)RNAが、crRNAと相互作用することでCasヌクレアーゼを標的へと誘導し結合させる活性なgRNAとなる。微生物におけるこのcrRNA(s)とtracrRNAを単一の(single) RNAに一体化するsgRNAの発明によって、Cas9-sgRNAによるプログラム可能で簡便なゲノム編集が実用化された。
  • Koonin(NCBI)やBarrangou (North Carolina State U)らは今回、クラス2 CRISPRシステム(V-B;Ⅱ-B,Ⅱ-A,Ⅱ-C)のgRNAsを比較ゲノム解析し、tracrRNAsに共通の特徴と多様性を同定し、その進化過程を詳細に論じた。
  • TracrRNAは、反復配列相補鎖の部分でcrRNAの反復配列と二重鎖を形成し、残る遠位領域にRho非依存性ターミネーターを帯びている。二重鎖の領域に様々なバルジが形成され、大きなバルジによって二重鎖領域が2つの領域(upper stemとlower stem)に分けられていることが多い。Lower stemは、ループ状のステム(以下、nexus)を介して、様々なステムループを形成するRho非依存性ターミネーターの領域に連結されている。
  • TracrRNAsの配列保存性は低いが、二重鎖領域のlower stemとnexusの位置と構造の保存性は高く、また、この領域はCas9ヌクレアーゼ内部に埋め込まれ、スペーサを介した標的認識に寄与することが示唆された。
7. CRISPR/Cas9によるシロイヌナズナのCrRLK1Lファミリーの4遺伝子の同時編集
  • [出典]"Multiplex mutagenesis of four clustered CrRLK1L with CRISPR/Cas9 exposes their growth regulatory roles in response to metal ions" Richter J [..] Schoft V, Hauser MT. Sci Rep. 2018 Aug 15.
  • シロイヌナズナの第5番染色体にクラスタを形成しているCrRLK1L (Catharanthus roseus receptor-like kinase 1-like)ファミリーのサブクラスMEDOS1からMEDOS4 (MDS1~4)を同時に標的可能とする単一のCRISPR/Cas9形質転換ベクターをGolden Gateに基づくクローニングシステムで構築 (原論文Figure 2を引用した下図参照)four targeted MDS genes
  • MDS遺伝子への点変異と欠失を誘起し、また、11 kbにわたる全遺伝子クラスタのノックアウトも実現;クラスタ・ノックアウトはCRISPR/Cas9コンストラクトを帯びていないT2世代まで25%継承;MDS4遺伝子の成長への影響と金属イオンへの応答の解析を実現
8. 汚染環境でエンリッチされた環境浄化菌におけるCRISPR-Casシステムと可動性遺伝因子から見えてきたダイナミックな水平移動
  • [出典]"Extrachromosomal circular elements targeted by CRISPR-Cas in Dehalococcoides mccartyi are linked to mobilization of reductive dehalogenase genes" Molenda O [..] Edwards EA. ISME J. 2018 Aug 13.
  • Dehalococcoides mccartyiは、還元的脱ハロゲン酵素をコードする遺伝子を多数含む脱ハロゲン呼吸バクテリアとして環境浄化に有用;汚染土壌のメタゲノム解析から得た6種類を加えた24ゲノムを解析し、5ゲノムからファージとゲノムアイランド (GI)'http://kazumaxneo.hatenablog.com/entry/2018/03/25/141342'を標的とするタイプI EとタイプI-CのCRISPR-Casシステムを同定;CRISPRアレイのスペーサ3種類は11年間に新たに獲得され、染色体外環状DNA上には脱ハロゲン酵素(VcrA)をコードするvcrABCオペロンを含む可動性遺伝因子(integrative and mobilizable elements, IME)を帯びたGIも存在。