[出典]"Mutation-independent rhodopsin gene therapy by knockdown and replacement with a single AAV vector" Cideciyan AV [..] Beltran WA. Proc Natl Acad Sci USA. 2018 AUg 20.

背景
  • 遺伝性網膜変性症は、視細胞または網膜色素上皮細胞に影響する250種類を超える遺伝子に起きる変異に起因する。
  • 常染色体劣性遺伝性およびX連鎖性遺伝性の場合は、関連する臨床試験の増加や、昨年末の先天的失明の遺伝子治療のFDA認可*が、その遺伝子治療の進展を示している (* 関連crisp_bio記事:2017-12-21 失明に至る網膜ジストロフィーの遺伝子治療、FDA認可)。
  • 一方で、主として、ロドプシン(RHO)遺伝子における150種類を超える変異に起因する常染色体優性遺伝性の網膜色素変性症(autosomal dominant retinitis pigmentosa, adRP)の場合は、対立遺伝子異質性 (allelic heterogeneity)の問題や変異遺伝子抑制の必要性があることから、遺伝子治療が進んでいない。
adRP遺伝子治療法の開発
  • ペンシルべニア大学とフロリダ大学の研究チームは今回、RHOの変異に依存しないadRP遺伝子治療が可能なことを示した。
  • 研究チームは、ヒトおよび犬のRHOに対して変異に依存せず効果的にノックダウンするshRNAを作出し、RNA干渉に対する耐性を持たせたヒトRHO置換cDNAと共に、単一のAAVベクターで送達する手法を開発した。
RHO-adRP犬モデルでの実証実験
  • ベクターを網膜下に注入することで、犬の内在RHO(変異型と野生型を問わず)の98-99%がノックダウンされ、ヒトRHO cDNAによる置換を介してRHOタンパク質レベルが正常なレベルの30%まで回復した。
  • 非侵襲的な網膜像解析から、ベクター標的領域の視細胞が網膜変性から完全に保護されていることを見出した。
  • 病理組織診断から、正常な視細胞の構造と網膜桿体外節におけるRHO発現が維持されていることを確認した。
  • 長期間(> 8ヶ月)にわたる網膜像観察と網膜電図検査から、構造と機能が安定していることも確認した。
  • 大型モデル動物において有効であったこの遺伝子治療法には、臨床への展開を期待できる。