1. ヒト胚ゲノムにおいてBE3によりβ-サラセミア変異を修復 (2017年論文)
  • [出典]"Correction of β-thalassemia mutant by base editor in human embryos" Liang P [..] Songyang Z, Zhou C, Huang J. Protein Cell. 2017 Nov;8(11):811-822. Online 2017 Sep 23.
  • [crisp_bio注] 本ブログでは上海の研究チームがMolecular Therapy'誌に発表した論文紹介記事をヒト胚においてマルファン症候群の病因変異をBE3で修復した」2018年8月19日投稿したが、BE3によるヒト胚ゲノム編集は2017年に中山大学(広州市)の研究チームがβ-ラサセミア病因変異を対象に実施しProtein Cell誌に論文発表していた。この論文については、本ブログでは、2017-10-07の記事「疾走する中国CRISPR療法研究開発」にて書誌事項を記録に留めていたが、今回は改めて概要を記録に留める。
  • β-サラセミアはHBB遺伝子の変異が病因であるが、中国と南アジアのβ-サラセミア患者において最も頻度が高い3種類の変異の一つがHBB c.28A>G変異である。この変異をヒト胚で修正することで、疾患の遺伝を抑止できる可能性がある。研究チームは塩基編集法の一つであるBE3による修正を試みた。
  • はじめに、レンチウイルスを介してHBB c.28A>G変異を導入した293T細胞をモデルとして、実験に使用すべきgRNAsのオンターゲット編集効率とオフターゲット作用を評価した。次に、HBB c.28A>Gホモ接合型変異を帯びたβ-サラセミア患者由来の初代皮膚線維芽細胞、加えて、患者由来のリンパ球からの核移植で作出した疾患モデル胚において、BE3によるHBB c.28A>G修復を確認した。また、G28に加えてG25も脱アミノ化するというオフターゲット編集は見られなかった。
  • ゲノム編集の精度をさらに高めるために、BE3のコンポーネントである活性化誘導シチジンデアミナーゼに変異(W90Y+R126E+R132E, YEE)を導入し脱アミノ化のウインドウを狭めたYEE-BE3を利用し、モデル胚においてHBB c.28A>Gホモ接合型変異の修復を試みた。
  • 患者由来の皮膚線維芽細胞を利用して作出したモデル胚 (作成法:原論文Figure 4から引用した下図参照)YEE-BE3
    20サンプルのYEE-BE3ゲノム編集から得た73個の卵割球から48個についてHBBMDA増幅に成功し配列解析した。37個ではホモ型変異が修復されないままであったが、3個がヘテロ型変異へ、8個が野生型へと改変された。G25置換のオフターゲット編集は見られなかった。モデル胚はホモ型変異、ヘテロ型変異、修復野生型のモザイクであったが、胚での修復率は23.0%と見積もられた。
2. CD34陽性造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)におけるCRISPR/Cas9-AAV6ゲノム編集が転写機構に与える影響
  • [出典]"Global Transcriptional Response to CRISPR/Cas9-AAV6-Based Genome Editing in CD34+ Hematopoietic Stem and Progenitor Cells" Cromer MK [..] Porteus MH. Mol Ther. 2018 Jul 10.
  • ゲノム編集技術の臨床応用が始まりつつあるが、ゲノム編集技術が細胞過程に与える影響は完全には解明されていない。スタンフォード大学、アジレントおよびバル=イラン大学(イスラエル)の研究チームは、AAV6送達CRISPR/Cas9によるゲノム編集を加えたCD34陽性HSPCを対象として、エレクトロポレーション、Cas9 (mRNAまたはタンパク質)、化学修飾したsgRNAおよびAAV6遺伝子導入といった要素が細胞過程に与える影響を、遺伝子発現プロファイリングの変動から探った。
  • Cas9 mRNAが転写過程に対して最大の影響を与え、明確なウイルス応答を誘導し、転写全般 (特に代謝過程と細胞周期過程)を下方制御した;エレクトロポレーションも転写に大きな影響を与え、代謝過程を顕著に下方制御した;AAV6については、意外にも、ウイルス応答が検出されず、また、Cas9/sgRNA複合体RNPもDNA損傷の痕跡が検出されるが、許容範囲であった。
3. 「CD34陽性造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)におけるCRISPR/Cas9-AAV6によるゲノム編集に対する転写応答」は、特定の低分子に対する転写応答と一致する
  • [出典]""'Global transcriptional response to CRISPR/Cas9-AAV6 based genome editing' matches transcriptional response to specific small molecule perturbations" Nordor AV, Aryee MJ, Siwo GH. bioRxiv. 2018 Aug 24.
  • Nordorらは、Cromerらが報告(前項2参照)した遺伝子発現プロファイルの変動をもたらす低分子または薬剤が存在し、それらによってゲノム編集の調節やゲノム編集技術との併用療法が可能になると想定した。
  • 癌細胞株において擾乱と遺伝子発現プロファイルを対応づけた大規模なConnectivity Map(CMap)を利用し、Cromerらが報告したCRISPR/Cas9-AAV6ゲノム編集の各要素がもたらす転写プロファイルにそれぞれまたは共通して、極めて類似した変動をもたらすトポイソメラーゼ阻害分子群、加えて、DNA修復過程を標的とするその他の低分子群の同定に成功した。後者には、近年CRISPR-Cas9によるゲノム編集効率との関連が関心を集めているP53の調節に間接的に関わる低分子serdemetanが含まれていた。
  • さらに、Cas9-AAV6ゲノム編集の各要素がもたらす転写プロファイルと大きく異なる転写プロファイルをもたらす(負の関係にある)一連のアドレナリン受容体アゴニストを同定した。これは、4,000種類の低分子ライブラリーから、CRISPRを介したHDRを亢進する2種類のアドレナリン受容体アゴニストが同定した先行研究と整合する。また、RNPまたはAAVヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)との負の関係にあることなども見出した。
4. タモキシフェン誘導型およびミフェプリストン誘導型Cas9とCpf1の開発と実証 
  • [出典]"Tamoxifen- and mifepristone-inducible versions of CRISPR effectors, Cas9 and Cpf1" Dominguez-Monedero A, Davies JA. ACS Synth Biol. 2018 Aug 23.
  • タモキシフェン誘導型Creリコンビナーゼと、Creリコンビナーゼのように標的遺伝子にloxPを配置することなくゲノム編集可能なCRISPRエフェクターの特長を兼ね備えたタモキシフェン/ミフェプリストン誘導型のCas9とCpf1を開発。
  • Tet抑制レポーター遺伝子を帯びた細胞において、Tetリプレッサータンパク質(TetR)を標的とするsgRNAsを利用して、これら薬剤誘導型CRISPRエフェクターのバックグランド活性が低く、薬剤によって安定に活性化可能なことを実証
5. [レビュー]CRISPR/Cas9技術を利用した植物の病害耐性強化
  • [出典]"The Enhancement of Plant Disease Resistance Using CRISPR/Cas9 Technology" Borrelli VMG, Brambilla V, Rogowsky P, Marocco A, Lanubile A. Front Plant Sci. 2018 Aug 24.
  • SpCas9とCpf1の概要 (下図左参照);多重ゲノム編集法の概要(下図右参照);オフターゲット;形質転換法;病害耐性強化例(ウイルス耐性、病原真菌耐性;病原バクテリア耐性);将来展望・課題
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