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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典]"Humans as models of human disease" Kiberstis PA. Science. 2018 Aug 24;361(6404):763-764;"Biallelic RIPK1 mutations in humans cause severe immunodeficiency, arthritis, and intestinal inflammation" Cuchet-Lourenço D, Eletto D, Wu C [..] Nejentsev S. Science. 2018 Aug 24;361(6404):810-813. Online 2018-07-19.
  • マウスは、ヒト細胞におけるシグナル伝達パスウエイの探求に幸便なモデルである。しかし、突然変異が繰り返される自然界の実験“experiment of nature"の結果が時に、モデルマウスへの過剰な依存のリスクを露わにする。
  • RIPK1(receptor interacting protein 1 kinase)は近年細胞死を抑制する機能も兼ね添えていることが報告されたが、かねてより、そのキナーゼ活性が細胞死を誘導し、RIPK1欠損マウスが生後すぐに死亡することが知られていた。
  • Cuchet-Lourençoらは今回、原因不明な原発性免疫不全症の患者集団において、RIPK1遺伝子に発生したホモ型変異を介してRIPK1を欠損している患者4名を互いに独立な3家系から見出した。すなわち、マウスには致死性のRIPK1欠損が、ヒト集団においては致死をもたらさずにその影響が免疫系に限定される個人が存在した。
  • 全血分析は、4名でリンパ球が減少し各種サイトカイン生産が抑制されていることを示した。
  • In vitro実験 (RIPK1欠損細胞)では、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (MAPK)とサイトカイン分泌が抑制され、ネクロトーシスに至る傾向を示した。
  • 造血幹細胞移植によって4名のうち1名ではサイトカイン産生が回復し、症状が寛解した。
  • Cuchet-Lourençoらの報告は、免疫不全と自己免疫疾患が共存するという一見矛盾した症例であると共に、マウスとヒトの差異を示す例でもある。
Science誌の記事"Humans as models of human disease"は引用していないが、“experiment of nature"が療法の手がかりをもたらすことは少なくない。2018年8月17日のScience Immunologyにもその例が掲載された:
  • "Antigen-specific antibody Fc glycosylation enhances humoral immunity via the recruitment of complement" Lofano G, Gorman MJ, Yousif AS, Yu WH [..] Alter G. Sci Immunol. 2018 Aug 17;3(26).
  • HIVに感染した患者の中に、広域中和抗体(bNAbs)を他の患者(non-neutralizer)よりも効果的に生成する患者(neutralizers)が存在する。
  • Lofanoらは今回、Neutralizersとnon-neutralizer由来のHIV特異的抗体の比較から、Fcドメインのシアル化が亢進していることを見出した。
  • Fcドメインのシアル化の生物学的意味を解明するために、蛍光標識したHIV gp120に結合するHIV gp120特異的抗体、PGT121、のシアル化とシアル化されていないアイソフォームを作出し比較解析した結果、シアル化が補体を介してB細胞濾胞(follicle)への抗原集積を亢進することを見出した。
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