[出典]"Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space" Nishimasu H. [..] Zhang F, Nureki O. Science. 2018 Aug 30.

背景と概要
  • Casタンパク質の中で最も広く利用されているStreptococcus pyogenes由来Cas9(SpCas9)によるゲノム編集は、ゲノムDNA上のNGG配列に縛られている。すなわち、SpCas9は、NGGをPAM(プロトスペーサー隣接配列)として認識することで標的部位を切断する。
  • そこで、NGG縛りを緩めて標的可能領域を広げるために、SpCas9への変異導入によるPAM配列改変や、異なるPAM配列を認識するCasタンパク質の探索が試みられてきた(関連crisp_bio記事参照*)。
  • 西増ら東大、慶応大、阪大、Broad研、McGovern研ならびにMITの研究チームは今回、PAM配列NGをPAMとして認識するSpCas9変異体(SpCas9-NGと命名)を合理的に設計・作出し、その編集機能ならびに構造基盤を明らかにした。
  • Jinekらの先行研究において、SpCas9は、そのArg1333とArg1335でPAM配列NGGの2番目と3番目のGを認識することが明らかにされていた。そこで、研究チームは3番目のGとArg1335の間の塩基特異的相互作用を欠損させ、一方で、SpCas9とPAM二重鎖との間に塩基非特異的な相互作用を導入することで、SpCas9のNGG縛りを緩めることを試み、NG配列をPAMとして認識するSpCas9-NGに至った。
SpCas9-NGの樹立と機能
  • はじめに、野生型(WT)SpCas9にR1335A変異を導入した変異体がNGGの一種であるTGGに対して切断活性を示さないことをin vitroで確認した。
  • 次に、PAM二重鎖の周囲のLeu1111, Gly1218, Ala1322ならびにThr1337をアルギニンに置換することで、SpCas9変異体の切断活性が部分的に復活することを見出しR1335A/L1111R/G1218R/A1322R/T1337R変異体(以下、ARRRR)がTGGを帯びたプラスミドを効率的に切断することを確認した。
  • しかし、ARRRRの切断速度がWT SpCas9よりも遅いことから、先行研究からの知見を生かして、PAM二重鎖の糖‐リン酸主鎖と相互作用するD1135V、PAMの2番目のGと疎水性相互作用をするE1219F、ならびに、Arg1333とPhe1219 (E1219F)を安定にするR1335Vの変異も導入し、R1335V/L1111R/D1135V/G1218R/E1219F/A1322R/T1337R変異体 (以下、VRVRFRR)に至った。
  • TGN PAMsを帯びたプラスミドに対するVRVRFRRのin vitro切断活性を測定し、WT SpCas9より未だ切断速度は遅いが、TGA, TGTおよびTGCを伴う標的をより効率的に切断することを見出した。また、VRVRFRRの切断活性は概ねWT SpCas9とSaCas9よりも低いがAsCas12aおよびLbCas12aと同等であった。
  • In vitroアッセイでWT SpCas9がNGGを特異的に認識し、VRVRFRRがNGを認識することを確認した。VRVRFRRはNAN PAMsも認識したが、in vitroアッセイでその活性はTGN PAMsよりも低いことを確認した。
  • In vitroアッセイで、SpCas9-NGは、NGH PAMsを帯びた標的に対して、xCas9に優る認識と切断活性を示した。
SpCas9-NGの構造基盤
  • SpCas9-NG、sgRNAおよびTGG PAMを帯びた標的DNAからなる三者複合体の構造を2.7 Å分解能で決定し(PDB-5ZMH)、Arg1333とPAMの2番目のG(dG2*)との間の2本の水素結合、Arg1337(T1337R)と3番目のG(dG3*)との間の水素結合、Arg1111 (L1111R), Val1135 (D1135V)ならびに Phe1219 (E1219F)とPAM二重鎖の糖‐リン酸主鎖との相互作用などを同定した。
HEK293FT細胞内在NGN PAMsを標的とするゲノム編集
  • WT SpCas9は主としてNGGサイトおよび一部NGAサイトを切断indels誘導;NGGとNGAサイトは非認識
  • SpCas9-NGは、NGA, NGTおよびNGGサイトと、低率ではあるがNGCサイトを、切断indels誘導
  • xCas9は、NGHサイト全てについてSpCas9-NGよりも低い切断効率
  • GUIDE-seqで評価したEMX1VEGFAを標的とした場合のオフターゲット編集サイト数はWT SpCas9と同等;SpCas9-NGをeSpCas9に倣ってより高精度にしたSpCas9-NG-ESは、EMX1標的のオフターゲット編集を検出限界以下にし、VEGFA標的のオフターゲット編集を大きく低減
SpCas9-NGに基づくBase Editor
  • SpCas9-NG D10Aニッカーゼに活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)と融合させたSpCas-NG版Target-AID(以下、Target-AID-NG)の塩基編集(C-to-T変換)をNG PAMsを伴うヒトゲノム32ヶ所の標的サイトでTarget-AIDおよびxCas9-BE4と比較評価
  • Target-AID (nSpCas9–AID)は、NGGサイトを効率的に変換;NGAサイトは低率な変換;NGT/NGCサイトは無変換
  • Target-AID-NGは、NGCサイトでは低率であるが全てのPAMsについて塩基編集実現;poly-Cを含むオンターゲット・サイトの編集においてxCas9–BE4(xCas9 D10AニッカーゼとAPOBEC1)より高効率
2016-03-23 CRISPR関連文献メモ_2016/03/23(Cas9のPAM認識)