1. VertexとCRISPR Therapeutics、CTX001の治験をドイツで開始
[出典] "First CRISPR clinical trial backed by U.S. companies launches" Begley S. STAT News 2018 Aug 31.
- 米国FDAは、鎌状赤血球症を対象とするCTX001の治験を2018年5月に保留 (“clinical hold”)した (CRISPRメモ_2018/07/07 1) が、2018年8月31日、開発企業のCRISPR TherapeuticsはClinicalTrials.govに、Vertexと共同で2018年8月27日にドイツRegensburgの病院でβサラセミア患者を対象とする第1/2相試験に着手し、8月31日から被験者(18~35歳)30名までの募集を開始したと投稿した。
- CTX001は、βサラセミアと鎌状赤血球症の遺伝子治療を目指しているが、病因であるHBB遺伝子の修復ではなく、患者由来CD34陽性造血幹細胞・前駆細胞 (HSPCs)をex vivoでCRISPR/Cas9で編集し患者に戻すことで、生後1ヶ月を過ぎると発現が止まる胎児型ヘモグロビンの発現を誘導する遺伝子治療である。
2. 条件付きノックアウトアレル (cKO)マウスを1段階で作出するCRISPR-Cas9ゲノム編集法の再評価
[出典] "Re-Evaluating One-step Generation of Mice Carrying Conditional Alleles by CRISPR-Cas9-Mediated Genome Editing Technology." Gurumurthy C [..] Burgio G. bioRxiv. 2018 Aug 30.
- 2013年8月29日にCell誌オンライン版で公開された論文*"One-Step Generation of Mice Carrying Reporter and Conditional Alleles by CRISPR/Cas-Mediated Genome Engineering"の再評価
- 責任著者のGaetan Burgio (Australian National U.)は、2018年8月31日に「米国、欧州、日本ならびにオーストラリアの17グループ共同の実験;Cas9・2sgRNA-2ssODNを17,887の接合子にマイクロインジェクションまたはエレクトロポレーション;1,718匹の新生仔を得たが、一対のLoxPをcisに正しく挿入さた個体は僅かにその15匹 (0.87%)」とツイートした[下図左は原投稿Figure1の2sgRNA-2ssODN実験解説図、下図右は投稿Figure2/3からの実験結果まとめ]。Cell論文はMecp2 遺伝子座cKOにて16/98のデータを報告していた(Table 2)。
- 共同研究グループは、2sgRNA-2ssODNによるcKOの実現をもたらす因子を線形回帰分析により探った。その結果、cKOの実現は、sgRNA濃度、Cas9タンパク質、一対のLoxP挿入サイトの間隔には依存せず、中間のDNA断片を欠損することなく、2ヶ所に同時にLoxP配列を挿入する確率に依存することを見出した。
- *) "One-Step Generation of Mice Carrying Reporter and Conditional Alleles by CRISPR/Cas-Mediated Genome Engineering" Yang H, Wang H, Shivalila CS, Cheng AW, Shi L, Jaenisch R. Cell. 2013 Sep 12;154(6):1370-9. Online 2013-08-29.
3. 初代T細胞ゲノム編集結果に基づき、indelsの機械学習モデルSPROUTを開発し、またゲノム構造上近位からの比較的長い挿入を発見
[出典] "Systematic characterization of genome editing in primary T cells reveals proximal genomic insertions and enables machine learning prediction of CRISPR-Cas9 DNA repair outcomes." Leenay RT, Aghazadeh A, Hiatt J [..] Marson A, May AP, Zou J.
bioRxiv. 2018 Aug 31
- Chan Zuckerberg BioHub、UCSF、UC Berkeley、Stanford Uなどの米国研究チームは今回、ヒト初代細胞において初めて、細胞集団におけるCRISPR-Cas9誘導DSBの修復結果の変動を体系的に解析した。
- 複数の健常人由来のCD4陽性初代T細胞のゲノム1,521ヶ所のサイトをSpCas9 RNPで標的し、gRNAごとにその修復結果をディープシーケンシングで解析した。その結果に基づいて、indelsの長さと誘導確率を予測する決定係数が0.5を超える機械学習モデルSPROUT (CRISPR Repair OUTcome)を構築した。
- また、驚くべきことに、標的サイトの90%以上に、低頻度ではあるが、大規模な挿入が誘導されることを見出した。この挿入配列はゲノム上で分散した領域、特に、クロマチン相互作用によってゲノム三次元構造上切断サイト近位の配列、と高い同一性を示した。
- SPROUTプログラム提供サイト: https://github.com/amirmohan/SPROUT
ゲノム三次元構造関連crisp_bio記事
- 2018-09-02 ヒト二倍体細胞における一細胞ゲノム三次元構造の解析法Dip-Cを開発
- 2018-09-01 核サブ構造体に対する染色体の三次元配置を可視化するTSA-seq法を開発
4. 多重CRISPR/Cas9編集によるマウス肝臓特異的遺伝子の迅速破壊
[出典] "Rapid Disruption of Genes Specifically in Livers of Mice Using Multiplex CRISPR/Cas9 Editing." Pankowicz FP [..] Bissig KD. Gastroenterology. 2018 Aug 28.
- Baylor College of Medicineの研究チームは、数ヶ月で成体マウスの肝臓特異的に遺伝子破壊を実現する"somatic liver knockouts"法を開発し、高アンモニア血症のモデルとなるアルギニノコハク酸分解酵素の肝臓特異的ノックアウトマウス、および胆汁酸塩排出ポンプとして機能するP糖タンパク質/ABCB11(ATP-binding Cassette Sub-family B Member 11)の肝臓特異的ノックアウトマウス、を作出した。さらに、薬剤代謝に関与する五種類の酵素を同時にノックアウトしたマウスを作出した。
- [手法] フマリルアセト酢酸加水分解酵素欠失(Fah−/−)マウスに4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼHpdのエクソンを欠損させるCRISPR/Cas9プラスミドをHTVi (hydrodynamic tail vein injection)法で送達する。Fah-/-/Hpd-/-肝細胞は、Fah-/-肝細胞に対して生存優位性を帯び、数週間で肝臓全体の肝細胞を置換する*。そこで、Hpdを標的とするプラスミドと、関心がある遺伝子を標的とするプラスミドを送達することで、任意の遺伝子産物のほとんどを肝臓特異的に欠失したマウスを短期間で作出可能になる。
- *) 参考文献:"Metabolic reprogramming cures liver disease" Zlotorynski E. Nat Rev Mol Cell Biol. 2016 Sep 21.
5. トラフグ (Takifugu rubripes)のサキシトキシン/テトロドトキシン結合タンパク質タイプ2 (PSTBP2)のCRISPR/Cas9ノックアウト
[出典] "Genome editing of pufferfish saxitoxin- and tetrodotoxin-binding protein type 2 in Takifugu rubripes." Kato-Unoki Y, Takai Y, Kinoshita M, Mochizuki T, Tatsuno R, Shimasaki Y, Oshima Y. Toxicon. 2018 Aug 28.
- 二種類のsgRNAによりPSTBP2の変異誘導率(フレームシフト)それぞれ57.1%と62.5%を実現 (ヘテロ二本鎖移動度分析で判定)
- 関連科研費:挑戦的萌芽研究 25660169 フグ毒結合タンパク質遺伝子ノックアウトによるトラフグ毒化機構の証明
6. CRISPR/Cas9を介したストリゴラクトン生合成改変により植物のシュート分岐を調節する
[出典] "Engineering plant architecture via CRISPR/Cas9-mediated alteration of strigolactone biosynthesis." Butt H, Jamil M, Wang JY, Al-Babili S, Mahfouz M. BMC Plant Biol. 2018 Aug 29;18(1):174.
- イネのCAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE 7 (CCD7) ノックアウトにより腋芽発生が亢進し、草丈が短くなり、合成ストリゴラクトンにより表現型回復
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