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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2023-09-09 項目5にMethods in Molecular Biology シリーズに掲載のプロトコル論文へのリンクを追加
2018-09-09 初稿
1.  CRISPR遺伝子ドライブ実験に分子レベルでの安全装置を組込む
[出典] "Molecular safeguarding of CRISPR gene drive experiments." Champer J, Chung J, Lee YL, Liu C, Yang E, Wen Z, Clark AG, Messerbio PW. eLife 2019-01-22bioRxiv 2018-09-08.
  • 自己増殖する遺伝子ドライブの実験には、物理的あるいは環境的封じ込めだけでは不十分である。Akbariら (Science 2015)は2種類の分子レベルでの封じ込めを提案していた。一つには、遺伝子ドライブ対象の生物集団には存在しない合成配列 (synthetic target sites/合成標的サイト;例 EGFP)を標的とする手法であり、もう一つは、遺伝子ドライブのコンストラクトを分割 (split drives/ドライブ分割)する手法である。
  • Split driveでは、エンドヌクレアーゼのCas9とgRNAを分割し、Cas9を遺伝子ドライブの標的サイトとは独立な遠位のサイトに組み込む。
  • コーネル大学の研究チームは今回、ショウジョウバエを対象として、原論文Figure 1を引用した下図:a - 合成標的サイト;b - ドライブ分割)のように実装し、効果を実証した。
Gene drive
  • 合成標的サイト:常染色体の2サイトとyellow遺伝子に隣接するX連鎖サイトに上図aの遺伝子ドライブ・コンストラクトを利用してEGFPホモ型遺伝子座と遺伝子ドライブ/EGFPヘテロ型遺伝子型をEGFPとdsRedの蛍光で判定し、通常のホーミング遺伝子ドライブと同等の遺伝子ドライブ効率 (雌で52-54%;雄で32-46%)を確認;また、胚における遺伝子ドライブ・アレルが破壊された耐性アレルの発生率が80-91%であることを見出した。  
  • ドライブ分割:上図bのdsRed-gRNAとCas9-EGFPのコンストラクトをそれぞれ雌と雄に導入し交配し、ドライブ効率74%と耐性発生率74%を得た。
2. E. coliがMGEのDNA断片を獲得するCRISPR-Casアダプテーション過程の詳細
[出典] "CRISPR–Cas adaptation in Escherichia coli requires RecBCD helicase but not nuclease activity, is independent of homologous recombination, and is antagonized by 5′ ssDNA exonucleases" Radovcic M, Killelea T, Savitskaya E, Wettstein L, Bolt EL, Ivancic-Bace I. Nucleic Acids Res. 2018 Sep 5.
  • E. coliの‘naïve adaptation’において、Cas1-Cas2インテグラーゼが新たに侵入してきた可動性遺伝因子 (MGEs)由来のDNA断片をCRISPRアレイにスペーサとして取り込むプロセスについては構造基盤も明らかになっている。クロアチア、英国、ロシアの研究チームは今回、その前段階であるDNA断片の生成過程を詳らかにした。
  • E. coliの‘naïve adaptation’にはDNAヘリカーゼ-ヌクレアーゼRecBCDに依存されてきたが、RecBCDのヘリカーゼ活性は重要ではなくヌクレアーゼ活性が必須であり、相同組換えには依存せず、5' ssDNAテールを帯びたDNAが新たなスペーサの獲得を促進する (原論文Figure 6引用下図参照)。CRISPR–Cas adaptation in Escherichia coli
 アダプテーション関連crisp_bio記事CRISPRメモ_2018/08/14  2. 外来DNAの変異が
 タイプI CRISPR-Casシステムのプライム型スペーサ獲得に及ぼす影響

3. Cas9-sgRNAの新たな送達法CriPsと白色脂肪細胞の褐色化への応用
[出典] "CRISPR delivery particles targeting nuclear receptor-interacting protein 1 (Nrip1) in adipose cells to enhance energy expenditure." Shen Y, Cohen JL, Nicoloro SM, Kelly M, Yenilmez B, Henriques F, Tsagkaraki E, Edwards YJK, Hu X, Friedline RH, Kim JK, Czech MP. J Biol Chem. 2018 Sep 6. (bioRxiv 2018-06-21)
  • Cas9タンパク質とsgRNAのナノサイズの複合体を静電相互作用によりEndo-Porterと呼ばれる両親媒性ペプチドで被覆した粒子(CRISPR delivery Particles (CriPs)と命名)を作出
  • GFP発現マクロファージ細胞株、GFPトランスジェニックマウス由来の初代マクロファージ細胞と白色脂肪前駆細胞、およびGFPトランスジェニックマウスin vivoでのGfp遺伝子削除を実証
  • In vitroで、Lipofectamine®RNAiMAXより高効率
  • Nrip1をノックアウトによる白色脂肪細胞の褐色化と脱共役タンパク質1 (UCP1)の発現亢進を実現
  • 細胞毒性とオフターゲット作用は非検出
4. 核膜複合体の外膜リングの4コンポーネントをコードする遺伝子の変異がネフローゼ症候群 (SRNS)を引き起こす
[出典] "Mutations in multiple components of the nuclear pore complex cause nephrotic syndrome." Braun DA [..] Khokha MK, Hildebrandt F. J Clin Invest. 2018 Sep 4
  • SRNSの13ファミリーにおいてNUP107NUP85NUP133およびNUP160の変異が病因変異と同定;CRISPR/Cas9によるノックアウト実験でも裏付け
5. トランスジェニックalbinoゼブラフィッシュを、tRNAをベースにした多重sgRNA発現により作出
[出典] "A tRNA-based multiplex sgRNA expression system in zebrafish and its application to generation of transgenic albino fish." Shiraki T, Kawakami K. Sci Rep. 2018 Sep 6;8(1):13366.
[プロトコル論文] "Generation of Transgenic Fish Harboring CRISPR/Cas9-Mediated Somatic Mutations Via a tRNA-Based Multiplex sgRNA Expression" Shiraki T, Kawakami K. In: Amatruda JF, Houart C, Kawakami K, Poss KD (eds) Zebrafish. Methods in Molecular Biology 2023-09-06.
https://doi.org/10.1007/978-1-0716-3401-1_20 
  • 下図(原論文Figure 1とFigure 2の一部の引用)に示す多シストロン性tRNA-sgRNAを利用した多重sgRNAsの同時発現による遺伝子編集法を開発し、下図Figure2にあるように、slc45a2 (albino) 遺伝子を標的とする実験で実証tRNA-sgRNA
 多シストロン性tRNA-gRNAコンストラクトの利用関連crisp_bio記事

6. 遺伝子発現の多重抑制が負のエピスタシスを介してバクテリアの薬剤耐性獲得を遅らせる
[出典] "Multiplexed deactivated CRISPR-Cas9 gene expression perturbations deter bacterial adaptation by inducing negative epistasis" Otoupal PB, Cordell WT, Bachu V, Sitton MJ,  Chatterjee A. Commun Biol. 2018 Sep 3
  • 増え続ける多剤耐性バクテリアの脅威、抗生物質創出パイプラインの縮減および微生物の適応能力から、抗生物質耐性の進化を遅らせる長期的戦略が必要である。コロラド大学の研究チームは今回、遺伝子発現の変動の間のエピスタシス(Park & Lehner, Mol Syst Biol. 2013)を介して微生物の抗生物質に対する適応進化を抑制する手法を開発し、Controlled Hindrance of Adaptation of OrganismS (CHAOS)と命名した (原論文Fig. 1引用下図参照)。CHAOS
  • E. coli において、抗生物質暴露期間に適応度を向上させた個々の遺伝子発現抑制を多重化すると、エピスタシスを介して適応度が抑制され、エピスタシスが発生する菌株の抗生物質に適応するまでの期間が長引いた。さらに、ペプチド核酸を利用して4遺伝子の翻訳を抑制しエピスタシスを介して、カルバペネム耐性E. coli 臨床分離株の薬剤感受性を向上させた。
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