2018-09-11 初稿
[出典] "Federal Court Sides with Broad in CRISPR Patent Dispute" Akst J. The Scientist 2018 Sep 10. ;"Appeals court upholds CRISPR patents awarded to the Broad Institute" Begley S. STAT News 2018 Sep 10.
  • Broad Institute of MIT and Harvard (以下、Broad)のCRISPR特許成立としたUSTPOの裁定に対するUniversity of California (以下、UC)の異議申し立てを受けた連邦控訴裁判所はヒアリングを経て、2017年2月にUSTPOのPatent Trial and Appeal Board (PTAB)が下した裁定を認め、UCの異議申し立ては却下された。すなわち、UCの"DoudnaとChrpentierらが原核生物で発見したCRISPR-Cas9ゲノム編集技術により真核生物細胞のゲノム編集が可能なことは自明である(obvious)"とする主張はまたも認められなかった。 これまでの報道でも取り上げられており今回もSTAT News*が引用しているが、Doudna自身が2012年の講演で「CRISPR/Cas9が真核生物で機能するか確信がない」と発言していたことが結局ブーメラン (STAT Newsの表現では"Those words came back to haunt her")となった。
  • UCは最高裁判所に上訴可能であり、UC事務局法律顧問室のCharles Robinsonは、"さらなる訴訟を検討する"と発言し、また、"2012年にUCが申請した特許が保留されたままである"と指摘した。一方で、CRISPR特許を見守ってきた特許法の専門家は、Broad特許が最高裁で覆されることはないであろうとしている。また、Broadは"この革命的技術が広く開かれた形で利用されるよう協働していこう"という趣旨の声明を発表した。
  • 連邦控訴裁判所の決定を受けて、Broad特許をライセンスしたEditas Medicineの株価は2.7%上昇し、CharpentierとDoudnaの米国特許をそれぞれライセンスしたCRISPR TherapeuticsとIntellia Therapeuticsの株価は~1%下落したが、マーケットは、クロスライセンスを視野に入れて、今回の決定が各企業のCRISPR技術臨床応用に直接影響することはないとしている。
  • 米国でのCRISPR特許係争はこれで一応収束したが、欧州でのCRISPR特許係争は収束していない。欧州特許庁 (EPO)は、CRISPR-Cas9技術の基本的な特許を多数承認しており、UCとBroadの特許もいずれも承認され、互いに異議申し立てをしている。
  • [参考] CharpentierとDoudnaの米国特許関連crisp_bio記事:CRISPRメモ_2018/08/10 2. CRISPR特許:カリフォルニア大学として初の特許成立
  • [2018-09-13 追記] "The CRISPR patent decision didn’t get the science right. That doesn’t mean it was wrong" Sherkow JS. STAT News 2018 Sep 11.
  • [2019-02-09 追記] CRISPRメモ_2019/02/09 [第5項] カリフォルニア大学の2013年出願CRISPR特許、成立の見込み