[出典] NEWS FEATURE "Why Chinese medicine is heading for clinics around the world - For the first time, the World Health Organization will recognize traditional medicine in its influential global medical compendium" Cyranoski D. Nature. 2018 Sep 26.
  • 2018年6月18日に公表された国際疾病分類 (疾病及び関連保健問題の国際統計分類; International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems (ICD))の第11回改訂版 (ICD-11)に「第26章 伝統医学の病態-モジュールI」が新設されたが、この章は実質的には中医学 (中国伝統医学/Traditional Chinese Medicine (TCM))が対象となっている。
  • 2004年に、現在National Development Institute of Korean Medicineの理事長であるCHO Seung-Hoon博士は、WHO西太平洋地域局の伝統医学の地域アドバイザーに任命され、日中韓の専門家との議論を重ね小異 (skirmish)を乗り越えて、TCMの用語と分類の国際的標準化 (International Classification of Traditional Medicine, ICTM)を進め、3,106の用語リストを整備し、その名称と意味を英訳した。その成果がICD-11の第26章に反映されている。
  • TCMでは、ヒトの身体に存在する数百の経穴 (ツボ; acupuncture points)を鍼で刺激し、経路 (meridians)を流れる気 (qi;vital energy)を整え、また、薬草とともに、陰陽 (yin and yang)のバランスを整えることで、健康の維持と回復をもたらすと考えるが、標準化の中には、例えば、経穴の位置と名称も含まれる。
  • ICDは、100カ国以上における疾患と診断を分類し、WHO加盟国をはじめとして、各国の医師の診断、保険会社の保障対象設定、疫学研究、および公衆衛生担当者の判断の拠り所となる分類であり、TCMがそこに明確に位置付けられたことは、今後、各国の医療と保健衛生に大きな影響を与えていくと想定できる。
  • TCMの世界市場はすでに500億ドルとも言われているが、中国は近年TCMセンターを設置してTCMメディカルツーリズムの振興に力を注ぎ、ロシアをはじめとして各国から何万人もの訪問者を惹きつけている。国外でも、バルセロナ、ブタペスト、ドバイなど24を超える都市にTCMセンターを展開している。さらに今後2020年までに、国内15センターに加えて、一帯一路関係各国にTCMセンターを新設するとしている。一帯一路関係国へのTCM産物(漢方薬など)の輸出額はすでに2016年から2017年にかけて急上昇し(54%増) 3億ドルに達した。
  • WHOはMargaret Chan事務局長 (2006-2017年)の時代に、伝統医学の支持、なかでもTCMへの支持、を強めた。例えば、2014年に"The art and science of traditional medicine Part 1: TCM today - A case for integration"にて、伝統医学の近代化が地球規模の保健衛生に貢献するとし、また、2016年11月の北京講演で、中国の公衆衛生の進歩とTCM促進政策を絶賛した。
  • 西洋医学で育った医師や生物医学研究者は、TCMがICDに組込まれることを憂慮している。TCMでいうところの気や経路には生理学的根拠がない、漢方薬の成分が不明である (Screen uncovers hidden ingredients of Chinese medicine. Callaway E. Nature. 2012-04-12)、屠呦呦に2015年ノーベル生理学・医学賞受賞をもたらしたヨモギ属植物由来抗マラリア薬アーテミシニンは例外的であり殆どのTCM漢方薬はランダム化臨床試験で結果を出していない、さらに、TCMは危険である、といった指摘がされてきた。多くの漢方薬が腎毒性と発癌性を帯びているアリストロキア酸を含んでいることが明らかにされ (Grollman, A. P. et al. Adv. Mol. Toxicol. 2009)、また、中国の医薬品規制当局は、TCM関連で毎年230,000件以上の副作用の報告を受けている。
  • WHOはこれまで加盟国に対して、使用すべきワクチンや医薬品を具体的に特定し、また、摂取すべきではない食品を具体的に特定してきたが、TCMについては、Webサイトでアリストロキア酸についての言及はあるが、具体的に特定の漢方薬に言及することが無い。したがって、「第26章がTCMが全般的に安全である」というメッセージを広げることが危惧する声も出てきている。例えば、医療機関が保険会社に対してICD-11を根拠に、"TCMは正当な医療である"と主張する可能性が出てくる。こうした観点からNature誌が投げかけた質問に対して、WHOからは"伝統医療の安全で効果的な利用を実現するために、WHO加盟国が伝統医療の位置付けを定めていくためのガイダンスを提供する"という趣旨の回答を得た。
  • ICD-11は2022年に各国で具現化される (to be implemented)。