2020-06-18 Nature Communication論文刊行に応じて、書誌情報を追加し、図へのリンク埋め込みを含めてテキストを大幅に拡充
2018-10-05 初稿

出典
  • "CRISPR artificial splicing factors" Du M, Jillette N [..] Cheng AW. Nat Commun 2020-06-12;
    [Webサイト] C
    RISPR Artificial Splicing Factors (CASFx)  https://cheng.bio/casfx/
  • [crisp_bio初稿] スプライシングの制御を可能とするCRISPR技術を開発: [出典] CASFx (CRISPR Artificial Splicing Factors) "CRISPR Artificial Splicing Factors" Jillette N, Cheng AW. bioRxiv. 2018 Sep 30.
概要
  • 生命現象に深く関わっている選択的スプライシングを"読む (read)"ツールはRNA-seqによって長足の進歩をとげたが、"書く(write)"ツールは限られていた。Jackson LaboratoryとUniversity of Connecticut Health Centerの研究グループは今回、関心のある領域において特異的に選択的スプライシングを制御する("write") 因子を開発し、人工スプライシング因子 "CRISPR Artificial Splicing Factors(CASFx)"とて発表した。
  • CASFxは、不活性化CasRx (dCasRx)にスプライシング因子を融合した構成であり、エクソンのスキップに加えて挿入を実現し、また、その多重化も実現した。
  • ラパマイシンによるFKBPとFRBのヘテロ二量体化を介して活性を誘導可能なinducible CASFx (iCASFx)を作出することで、低分子による選択的スプライシング制御も実現した。
  • 脊髄性筋萎縮症 (SMA)患者由来の線維芽細胞において、SMN2遺伝子の第7エクソン (SMN2-E7)のスキップを実現した。
CasRxとdCasRx
  • CasRxは、ソーク研究所がRNAを標的とするCRISPR Casを探索し発見したCas13dのサブファミリーに由来する[*][*] crisp_bio 2018-03-17記事:これまでで最小かつヒト細胞で活性なCas13dの同定と解析2報 [ 第1項] Salk研報告 (Cas13d;CasRx)参照]
  • ソーク研の論文において、CasRxのHEPN触媒活性ドメインを不活化したdCasRxによりスプライシング部位を標的する[**]ことで、いわば機能的なエクソン・ノックアウトにあたるエクソン・スキッピングが実現されていた。[**] dCasRx Splice Effectors という表記が使われていた
 成果詳細

 Nat Commun論文の著者らは今回、脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy: SMA)に関連するSMN2遺伝子の第7エクソン (SMN2-E7)をモデルとして実験を進めた。

HEK293T細胞に導入したSMN2 minigeneを対象とする実験
  • このminigeneは、通常、E6とE8を備えE7を欠損したアイソフォームを産物とする。研究グループは、RBFOX1のRNA認識モチーフ (RRM: 118-189の残基)全体をdCasRxに差し替えた人工因子RBFOX1N-dCasRx-C [*]をCASFx1と称し、CASFx1でE7とE8のイントロン領域を標的するgRNAを増やしていくほど (1~4ヶ所)、E7を帯びたアイソフォームの比率が上がることを見出した (Fig. 1または下図参照) [*]下図右上のCASFx1の模式図にあるように、この因子は、RBFOX1のN末端ドメインとC末端ドメインの間にdCasRxが挟まれた形になっている。
CASFx1
  • 続いて、RBFOX1に代えてRBM38をdCasRxのC末端またはN末端に融合し、それぞれ、CASFx2とCASFx3と称し、E7を帯びたアイソフォームの比率が上がることを確認したが、その効果はCASFx1が21倍であったのに対していずれも~6倍に留まった。また、イントロン領域ではなくエクソンE7を標的とするgRNAを選択すると、RBFOX1またはRBM38融合の有無に関わらず専らE7を含まないアイソフォームが産生された (Fig. 2参照)。
    CASFx-1において、E7の活性化をもたらすRBFOX1の領域を、領域を削除する実験で絞り込み、C末端ドメインが必須であり、N末端ドメインはC末端ドメインによる活性化を促進することも同定した。
  • CASFx-1において、E7の活性化をもたらすRBFOX1の領域を、領域を削除する実験で絞り込み、C末端ドメインが必須であり、N末端ドメインはC末端ドメインによる活性化を促進することも同定した。

CASFxの多重化

 CasRxは、ポリシストロニックなgRNA前駆体アレイから多重なsgRNAsを切り出すことが可能なことを利用して、前項と同様にSMN2 minigeneのE7下流のイントロン領域3箇所を標的とするgRNAsと、新たにRG6 minigeneのスプライスアクセプター部位 (RG6-SA9)を標的とするsgRNAを介して、単一のCASFx-1により、
SMN2 E7の取込とRG6のカセット・エクソン除去という2種類のスプライシング制御を同時に実現した (Fig. 3参照)。

iCASFx (ラパマイシン誘導CASFx)

 ラパマイシン存在下で、RBFOX1N-FRB-RBFOX1CとFKBP-dCasRxまたはdCasRx-FKBPの二量体化が進行し、CASFx-1として機能することを確認した (Fig. 5参照)。

患者由来細胞SMN2での検証
  • II型SMA患者由来のGM03813線維芽細胞において、CASRFx-1に加えて、dCasRxをPrevotella sp.由来のdPspCas13bに差し替えたRBFOX1N-dPspCas13b-Cについて、CASRFxによるSMN2-E7の遺伝子産物への取込みを検証した (Fig. 6参照)。
    その結果、E7取込とE7スキップの比率が、
  • その結果、E7取込とE7スキップの比率が、CASRFx-1で~2倍、RBFOX1N-dPspCas13b-Cで~2.75倍となることを見出した。
    CASFxは、疾患関連細胞の内在遺伝子に対しても有効であることが実証されたことに加えて、互いに直交するCRISPR-Casシステムの組合せが機能する可能性を示した。
  • CASFxは、疾患関連細胞の内在遺伝子に対しても有効であることが実証されたことに加えて、互いに直交するCRISPR-Casシステムの組合せが機能する可能性を示した。
[参考] エキソン・スキッピングと選択的スプライシング関連crisp_bio記事