[出典] "The intellectual disability gene PQBP1 rescues Alzheimer's disease pathology" Tanaka H, Kondo K, Chen X, Homma H, Tagawa K, Kerever A, Aoki S, Saito T, Saido T, Muramatsu SI, Fujita K, Okazawa H. Mol Psychiatry. 2018 Oct 3.
  • ADを発症している患者を対象とする治験において、βアミロイド (Aβ)凝集除去療法による記憶能力と認知機能の回復が見られないことから、ADの早期の病態 (early-phase pathologies)への関心が広がっている。東京医科歯科大学の岡澤 均教授を責任著者とする医科歯科大、順天堂大学、理研ならびに自治医科大学の研究グループは今回、SRRM2タンパク質のリン酸化がADの超早期に進行し、知的障害 (intellectual disability)遺伝子として知られるポリグルタミン配列結合タンパク質1(Polyglutamine binding protein 1, PQBP1)をコードする遺伝子が、ADの治療標的として有望なことを示した。
  • 岡澤らは先行研究で、マウスADモデルとヒトAD患者の脳組織の網羅的リン酸化プロテオーム解析により、ADモデルに共通し、ADの早期に異常リン酸化されている17タンパク質を同定し、その中でもMARCKS (Myristoylated alanine-rich C-kinase substrate) のリン酸化がAβの凝集と認知障害が始まる前から進行することを見出し、さらに、MARCKSのリン酸化を誘導するHMGBタンパク質がAD治療標的足り得ることを示していた ("HMGB1, a pathogenic molecule that induces neurite degeneration via TLR4-MARCKS, is a potential therapeutic target for Alzheimer’s disease" Fujita K, Motoki K, Tagawa K [..] Okazawa H. Sci Rep. 2016 Aug 25)
  • SRRM2 (Serine/arginine repetitive matrix protein 2)タンパク質はRNA結合タンパク質の一種であり、mRNA前駆体のスプライシングに関与することが知られている。SRRM2は先行研究の17タンパク質に含まれていたが、今回、ADモデルマウスの早期とAD末期患者の死後の脳組織に見られるSRRM2のSer1068のリン酸化が、SRRM2とシャペロンタンパク質の一種であるT-complex protein 1 subunit α (TCP1α)との相互作用を阻害し、ひいては、SRRM2の核内移行を阻害することを見出した (原論文Fig. 2引用下図参照)。SRRM2
  • 神経細胞におけるSRRM2欠損は、新たに作出したPQBP1ノックアウトモデルマウスで示されるように、PQBP1タンパク質を不安定にし、シナプス関連遺伝子のスプライシング・パターンを改変した。
  • ヒトAD患者とADモデルマウスの皮質ニューロンにて、PQBP1とSRRM2の双方が下方制御されていた。また、ADモデルマウス (5xFADマウスとヒトAPPノックインマウス)にPQBP1をAVVで送達すると、シナプスの形態、RNAスプライシング、およびY-迷路試験での成績が回復することを見出した。
  • さらに、SRRM2のSer1068リン酸化責任酵素が、ERK1/2 (MAPK3/1)であると推定するに至った。
  • こうして、細胞外Aβ凝集に先立って、RNAスプライシングとシナプス形成に異常をもたらすリン酸化が進行することが明らかになった。また、このリン酸化は、タウのリン酸化と並行して進行すると考えられる。