crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "CRISPR-Mediated Programmable 3D Genome Positioning and Nuclear Organization" Wang H, Xu X, Nguyen CM, Kipniss NH, Russa ML, Q LS. Cell. 2018 Oct 11.;News "Moving DNA to a different part of the nucleus can change how it works" Pennisi E. Science 2018 Oct 11.

背景
  • 細胞核内でのゲノム遺伝子座の空間的配置とその機能が密接に関連している。例えば、リンパ球の発生時には、免疫グロブリン遺伝子座が前駆細胞の核周縁部 (nuclear periphery)からプロB細胞では核内部へと移動し、前神経 (proneural)転写因子Ascl1/Mash1がES細胞の核周縁部から分化した神経細胞では核内部に移動している。膜を帯びていない核内構造体 (nuclear bodies)と遺伝子座の位置関係も、遺伝子発現と相関している。
  • FISHや一連のchromosome conformation capture (3C)アッセイにより、クロマチンの構造と遺伝子発現調節の相関について情報を得ることができるがその因果関係を明らかにするまでには至らない。CRISPRko/i/aによって遺伝子機能同定が促進されたように、ゲノム構造を人工的に改変し、その細胞機能への影響を解析する技術があれば、ゲノム遺伝子座の空間的配置の生物学的意味の理解が大きく前進する。
CRISPR-GO (CRISPR-genome organizer)
  • Lei S.Qiが率いる研究チームは今回、CRISPR技術をCRISPRko/i/aから、細胞核内での遺伝子座の空間的位置の調節へと展開し、ゲノムのマクロスケール (∼μm)の空間構造と細胞機能の因果関係解明に利用可能な技術、 CRISPR-GO、を確立した 。
  • CRISPR-GOは、CRISPR-dCas9と核分画に特異的なタンパク質とを、リガンドを介して二量体化へと化学的に誘導する技術である (以下、Cell at CellPressのツイート引用を参照)。
  • すなわち、先行研究の例えば、細胞内での染色体ループの人工的形成に利用された技術と同じ分子機序に基づいている (関連crisp_bio記事:2017-09-05 CRIPSR技術を応用して細胞内で染色体ループを人工的に形成してみた)。
  • 具体的には、標的核分画に植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)受容体PYL1を融合し、SpydCas9-sgRNAシステムにABAシグナル伝達の調節因子ABIドメインを融合し、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)添加によって化学的近接(Chemically induced proximity、CIP)を介してABIとPYL1の二量体化を誘導し、ABA除去によって二量体を分解することで、SpyCas9-sgRNAを結合させた遺伝子座の核内での効率的かつ可逆的再配置を実現した。
  • このCRISPR-GOに、SpydCas-sgRNAとは独立なdCas9-HaloTagなどを介した可視化技術を組み合わせることで、ゲノム遺伝子座の再配置とその影響の細胞内リアルタイム観察を実現した。
遺伝子座の核周縁部への再配置
  • 反復領域を帯びた遺伝子座の核周縁部への移行:例えば、核周縁部に局在するテロメアの割合が26%から65%まで上昇することを確認した。
  • 反復領域を持たない遺伝子座の核周縁部への移行:XISTPTENなどで顕著な移行を確認した。
  • 化学誘導二量体化の速さ:第3染色体(Chr3)上の遺伝子座の核周縁部の移行実験では、ABA投与後16時間で19%から75%へ、72時間で91%に増加し、 ABA除去後24時間で45%へ、48/72時間で27/28%へ減少した。
  • 再配置の機構には有糸分裂依存と有糸分裂非依存の2種類が共存と推定 (Chr3遺伝子座の動態観察結果から)した。
  • 核周縁部に移行したChr3遺伝子座の動きが抑制された。
  • 核周縁部への再配置が遺伝子発現に与える影響は遺伝子座によって異なった (抑制される遺伝子がと影響が見られない遺伝子座)。
遺伝子座の核内構造体への再配置
  • CRISPR-GOにより、ゲノム遺伝子座と、カハール体 (Cajal body, CB)とPMLを含む核内構造体との、共局在を誘導し可逆的に非局在化することが可能なことを確認した。
  • CRISPR-GOにより、標的遺伝子座で新規カハール体を形成することが可能であり、ABA非存在下で互いに近位に位置していた遺伝子座とカハール体がABA存在下で共局在化することを発見した。
  • 核周縁部またはカハール体に再配置した遺伝子座は、近位のレポータ遺伝子の発現を抑制し、遺伝子座とカハール体の共局在は遠位(30-600 kb)遺伝子の発現抑制をもたらした。
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