1. ヘルパー依存型アデノウイルスベクターを送達手段とすることで、CTCF遺伝子のCRISPR形質導入による嚢胞性線維症の治療の道が開ける
[出典] "Overcoming the undesirable CRISPR-Cas9 expression in gene correction" Xia E [..] Hu J. Mol Ther Nucleic Acids. 2018-10-30
  • 嚢胞性線維症 (CF症)の遺伝子治療の試みは1990年代から始まったが、外来遺伝子の発現が気道の免疫応答で障害されることに加えて、上皮細胞のターンオーバーのため治療用ベクター投与の繰り返しが必要になることが、課題であり、気道上皮細胞の元になる気道幹細胞において変異CFTR遺伝子を恒久的に修復する手法の開発が望まれていた。
  • トロント大学の研究チームは今回、アデノウイルス5型 (Ad5)からウイルスタンパク質をコードする領域全てを欠損させたヘルパー依存型Ad (HD-Ad)に基づくベクターに注目した。HD-AdはAd5と比べると積み荷の容量が~37 kbへと拡大し免疫原性が低減しながら上皮細胞への指向性 (tropism)を失っていない
  • 研究チームはHd-Adを利用して、先行研究で幹細胞の特性を備えた気道基底細胞への遺伝子導入とヒト初代細胞への遺伝子導入を実現していたが、今回、CRISPR-Cas9-sgRNAとドナーDNA(LacZレポーターまたはCFTR遺伝子)をHd-Adベクターによりヒト培養細胞 (HEK293; ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株A549; CF患者由来細胞株IB3-1)に送達し、ドナーDNAのAAVS1遺伝子座への挿入を実現し、野生型CFTR遺伝子の導入がCF細胞株においてCFTRチャネルの活性を回復することを確認した。
  • さらに興味深いことに、遺伝子導入に続いてCRISPRシステムを送達したHD-Adベクターが迅速に分解し、Cas9発現の消滅に至る。したがって、Hd-AdベクターはCas9の発現継続に伴う免疫原性とオフターゲット編集の低減を期待できる。HD-Adは、安全なCRISPR-Cas9 CF遺伝子治療法の開発に寄与すると考えられる。
2. ヒト細胞はSpCas9に対して特異的なエフェクターT細胞と制御性T細胞を生成する
[出典] "High prevalence of Streptococcus pyogenes Cas9-reactive T cells within the adult human population" Wagner DL, Amani L,Wendering DJ, Reinke P,  Volk HD, Schmueck-Henneresse M. Nat Med. 2018 Oct 29. (bioRxiv 2018-04-04)
3. [プロトコル]MyoDを標的とするCRISPR/Cas9を介して衛星細胞を直接に脂肪細胞へと分化転換する手法
[出典] "Transdifferentiation of Muscle Satellite Cells to Adipose Cells Using CRISPR/Cas9-Mediated Targeting of MyoD" Chen J, Wang C, Kuang S. In: Rønning S. (eds) Myogenesis. Methods in Molecular Biology. 2018 Oct 27.
  • [背景] 震えなし熱発生を介してエネルギーを消費する褐色脂肪組織は乳幼児に特に豊富であり成長とともに減少し、肥満体では特に極めて少量になる。筋芽細胞を褐色脂肪組織へ分化転換することは、肥満治療に有効と考えられる。
4. [ミニレビュー] RNAを標的とするCRISPR-Casシステムの可能性
[出典] MINIREVIEW "CRISPR-Based Technologies: Impact of RNA-Targeting Systems" Terns MP. Mol Cell. 2018-11-01.
  • 多様なCRISPR- Casシステムの中でRNAを標的とするタイプ・サブタイプを解説:DNAとRNAの双方を認識・切断するType III CRISPR-Cas (CsmとCmr)の構造とRNA認識・切断の機序と応用;Type II CRSIRP-CasシステムにおいてdsDNAに加えてRNAを認識・切断するCas9 (RCas9)の分子機序と応用;RNAだけを認識・切断するType VI (Cas13)システムのエフェクター構造とRNA認識・切断の機序と応用;Cas13を利用したin vitro核酸検出と診断(SHERELOCK);Cas13を利用したバクテリアと哺乳類細胞in vivo遺伝子発現ノックダウンと部位特異的RNA編集;将来展望 (DNA編集CRISPR-Casシステムに無い利点;RNA生物学のツールとしての期待)
  • 関連crisp_bio記事:2018-04-27 CRISPR技術による次世代診断ツール開発:展望とMammoth Biosciencesの登場
5. [特許] DNAポリメラーゼシータ (POLQ)を阻害することで、哺乳類細胞においてCRISPRを介したDNA編集を促
  • 公開日 10/25/2018;発明者 Sfeir A, Mateos-gomez P.;権利者 New York University.
6. [ポリシーフォーラム] 遺伝子ドライブ技術に関する議論には、地域コミュニティーの観点が必須である
[出典] POLICY FORUM "Editing nature: Local roots of global governance - Environmental gene editing demands collective oversight" Kofler N et al. Science. 2018-11-02.
  • 遺伝子編集技術により改変した生物の環境への放出について地域(local)コミュニティーから始まり、研究者・技術者、政府機関とNGOを巻き込んだ包括的審議を可能とする"environmental gene editing coordinating body"の設立を提案
  • 遺伝子編集した生物の環境への放出にあたっては、遺伝子改変する生物、遺伝子改変の範囲と意図、影響を受けるエコシステム、ヒトの健康への影響および放出地域コミュニティーの価値観を、分析・考察する必要があるが、これまでの議論には、地域コミュニティーの観点が欠けていた。そもそも、遺伝子編集生物の放出の影響を最初に体験する地域コミュニティーを置き去りにした議論は有りえない。
  • 一方で、特定の地域で放出される遺伝子編集生物は国境を超えて広がる可能性を帯びている。
  • グローバルなビジョンの枠組みの中で地域的(local)な観点を重視した議論が必要である。