crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

# crisp_bio 2019-08-13: crisp_bio 2019-08-03の注で引用したbioRixv投稿[Contradictory Results]に対するNature論文著者からの反論が2019-08-13にbioRxivに投稿された。
# crisp_bio 2019-08-03: 本記事のNature論文に対して、"[Contradictory Results] Evidence that APP gene copy number changes reflect recombinant vector contamination"が、2019年7月22日にbioRxivにBoston Children’s Hospital/Harvard Medical SchoolのKim J [..] Walsh CA, Lee EA.により投稿された (2019-08-03 bioRixv投稿、Nature掲載'APP gencDNSs'論文の問題点を指摘)。
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crisp_bio注: 2019-07-15に記事タイトルを、「神経細胞でも体細胞組み換えが起こる、そのアルツハイマー病との相関は?」から改訂しました。

[出典] 
NEWS & VIEWS "A newly discovered mechanism driving neuronal mutations in Alzheimer’s disease" Chai G, Gleeson JG. Nature 2018 Nov;563(7733):631-632.論文 "
Somatic APP gene recombination in Alzheimer’s disease and normal neurons" Lee MH, Siddoway B, Kaeser GE, Segota I [..] Chun J. Nature 2018 Nov;563(7733):639-645. Online 2018-11-21.; NEWS "Thousands of amyloids may foil Alzheimer's drug" Hodgson J. Nat Biotechnol. 2019 Feb;37(2):114-115..

神経細胞における遺伝子組み換え
  • ヒト脳は構造的にも機能的にも多様かつ複雑であるが、遺伝的にもモザイクであることが報告されている。生殖細胞系列のDNA配列は体細胞遺伝子組み換えによって多様性を増すことから、理論的には体細胞遺伝子組み換えによって脳神経細胞の多様性・複雑性がもたらされるが、これまで、神経細胞での体細胞遺伝子組み換えは報告されてこなかった。
  • Sanford Burnham Prebys Medical Discovery InstituteとUCSDの研究チームは今回、アルツハイマー病の有る無しにかかわらず神経細胞において遺伝子組み換えが発生すること、また、アミロイドβ前駆体をコードするAPP遺伝子にアルツハイマー病 (AD)に特異的な極めて多様なバリアントが存在することを見出した(注 APPを標的とする抗体医薬の治験が成功に至らない一因とも考えられる
神経細胞mRNAの多様性とゲノム配列の多様化
  • 研究チームは、RT-PCR解析により、孤発性AD(SAD)患者とSADを伴わないコントロールの前頭前皮質細胞核由来mRNAに多様なバリアントを見出し、さらに、それらに対応するゲノム配列バリアントを見出して、‘genomic cDNAs’ (gencDNAs)と命名した。
  • gencDNAsの存在は、単一神経細胞を対象としたDNA in situハイブリダイゼーション (DISH)およびAPP DNAのシーケンシングにより裏付けられた。また、単一神経細胞内で、神経細胞の野生型遺伝子座と神経細胞以外の細胞では見られないgencDNAsの存在を確認した。
APP gencDNAsの多様性
  • gencDNAsは、イントロンを含まず野生型遺伝子座から一連のイントロンだけが切り出された全長cDNAに相当する配列、いくつかのエクソンも切り出されて遠位のエクソン同士が直接結合した配列、挿入や欠損が発生した配列、そしてまたはSNVを帯びた配列など、多様なバリアントが存在した。
  • 5名のSAD患者由来の96,424個の神経細胞に、SAD特異的なAPP gencDNAバリアント6,299種類 (コントロールの~10倍に相当)を見出した。
SADに特異的なAPP
  • コントロールに比べて、より多様なgencDNAsバリアントが存在し、モザイク性 (mosaicism)が亢進し、コントロールには見られず家族性AD患者 (FAD患者)に見られる11種類のバリアントが含まれていた。
  • コントロール由来神経細胞に特異的なAPP gencDNAsは1,084種類を同定したが、バリアントのほとんどがスプライシングバリアントであった。
  • gencDNAsはADモデルマウスにも存在したが、神経細胞以外の細胞型にはほとんど見られず、またコントロールにも見られなかった。
gencDNAsの発生機序
  • 研究チームは、細胞株にて変異APP cDNAからgencDNAが生成されゲノムに挿入されることを確認し、レトロトランスポゾンに類したRNAの‘retro-insertion’によるgencDNAs生成モデルを提唱した (NEWS & VIEWSのFigure 1. Mosaic incorporation of APP variants into the neuronal genome参照)。
  • この機序が老化の影響を受けることが示唆され、また、逆転写酵素を標的とするHIV-1療法に倣ったAD療法が示唆された。
参考crisp_bio記事 
  • 2018-12-28 次世代アルツハイマー病マウスモデルパネルを遺伝的多様性導入により構築
  • 2017-04-19 SLENDR法 - マウス脳において、タンパク質細胞内局在をハイスループットかつナノスケールでマッピング
  • 2019-06-12 変異は正常、正常は変異 - 健常人の組織は、癌関連変異を含む体細胞変異に満ちている
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