(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160408)
  • Corresponding authors: Joachim Hauber (Heinrich Pette Inst.)Frank Buchholz (Technische Universität Dresden)
  • 抗レトロウイルス剤の併用(combination antiretroviral therapies, cART)によってヒトにおけるHIV-1増殖を効果的に抑制することが可能になったが、HIV-1は少数の宿主細胞にプロウイルスとして潜在し再発の恐れを秘めている。
  • 著者らは、HIV-1感染細胞からプロウイルスを根絶することを目的として、患者由来のHIV-1株とサブタイプの大多数の末端反復配列(long terminal repeats, LTRs)に存在する34-bpの配列を特異的に認識するリコンビナーゼ“Brec1”を、定向進化に倣った分子進化工学によって作出した。
  • HIV-1感染者由来のCD4陽性T細胞にBrec1を導入した細胞(以下、改変細胞)20日間培養した結果、ウイルスタンパク質の産生がほぼゼロになり、HIV-1ゲノムにマップされる細胞由来DNAリード数が減少していた。
  • 免疫不全マウスに移植した改変細胞し18週間後に、ウイルスのレベルは検出限界以下であった。
  • HIV-1非感染者以来の造血系細胞を免疫不全マウスに移植しHIV-1を感染させたところ、ウイルス量、qPCRアッセイ及び免疫組織化学的検査のいずれもBrec1の抗ウイルス効果を示した。
  • Brec1は安全性も高い:Brec1の発現は細胞成長、細胞周期あるいは造血幹細胞の分化に影響を与えなかった;改変細胞において遺伝的変異を起こさなかった;Brec1を恒常的に発現している状態で18ヶ月経過後もモデルマウスは正常で会った;遺伝的改変のリスクはゼロではないが、CRISPR/Cas9と異なりBrec1はDNA修復機構に依存しないため、副作用のリスクがより低いと考えられる。
  • 潜在性HIV-1に対する治療戦略には、細胞変性効果と細胞傷害性T細胞(CTL)を利用する'shock and kill’法、HIV株感染の際に標的とされるCCR5のノックアウト、プロウイルスへの変異導入及びプロウイルスの除去が存在する(NEWS AND VIEWS 図1より)。
  • 臨床応用にあたっては、リスクに加えて、Brec1の送達方法が課題である。プロウイルスが潜在している細胞と正常な細胞を識別する方法が未だ存在しないため、すべてのCD4陽性T細胞に送達する必要がある。また、Brec1を造血幹細胞へ送達し、HIV-1を含まない子孫細胞を産生することも考えらえれるが、この場合は、HIV-1感染者に存在する成熟CD4陽性T細胞におけるウイルスの除去または複製阻害には有効ではない。
  • [情報拠点] 本記事は、原著論文にNEWS AND VIEWSの見解を交えて構成しました。
論文→Janet Karpinski et al. “Directed evolution of a recombinase that excises the provirus of most HiV-1 primary isolates with high specificity.” Nat. Biotechnol. 2016 Apr;34(4):401-409