1. 化学療法とCRISPR-Cas9遺伝子編集の癌併用療法の可能性
[出典] "Functional Gene Knockout of NRF2 Increases Chemosensitivity of Human Lung Cancer A549 Cells In Vitro and in a Xenograft Mouse Model" Bialk P, Wang Y, Banas K, Kmiec EB. Mol Ther Oncolytics. 2018-12-21 Online 2018-10-18.
  • 肺癌の化学療法に対する耐性獲得には、薬剤排出または薬剤不活性化を調節する多様な遺伝子が関与している。
  • 酸化ストレスそしてまたは求電子的ストレスに対する細胞応答に関与する100-200の遺伝子を標的とするマスター転写因子として、赤血球系転写因子2関連転写因子2 (Nuclear Factor Erythroid 2-Related Factor 2; NRF2遺伝子)が想定されている。
  • Helen F. Graham Cancer Center & Research Institute Gene Editing InstituteのE. B. Kmiecらは、NRF2遺伝子の核外搬出シグナル(nuclear export signal, NES)配列を標的とするCRISPR/Cas9を介してNRF2遺伝子産物であるタンパク質の核への移行を阻害することで、ヒト肺胞基底上皮腺癌A549細胞の増殖が抑制され、シスプラチンやカルボプラチンといった化学療法剤への感受性が高まることを見出した。
  • 培養細胞での結果に加えて、マウスに異種移植したCRISPR-Cas9遺伝子編集A549細胞は、化学療法剤を投与しない状態でも増殖速度が低下し、化学療法とCRISPR遺伝子編集を併用した場合、成長が16日間停止し、腫瘍量が激減した。
  • 臨床応用には、CRISPR-Cas9を肺癌組織特異的に精密に送達する手法を開発する必要がある。
2. Cre/Flpに替えてCRISPR-Cas9でマーカ・カセットをフリップアウトする
[出典] "Clonal analysis by tunable CRISPR-mediated excision" Gilles AF, Schinko JB, Schacht MI, Enjolras C, Averof M. Development. 2018-12-14. (bioRxiv 2018-08-17)
  • Cre/loxとFlp/FRTシステムは、多細胞生物において個々の細胞とその子孫細胞をマーキングに広く利用されているツールである。このツールは、細胞の形態、成長、そして運命の解析 (細胞系譜の解析)を可能とし、また、細胞集団の亜集団への特定の変異導入を介して遺伝的モザイク現象の解析も可能とする。
  • Institut de Génomique Fonctionnelle de Lyonの研究チームは今回、貯穀害虫コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)の場合は熱ショックプロモーターのリーキーな活性のためマーキングの制御が困難であったことから、CreまたはFlpリコンビナーゼによるマーカ・カセットの切り出し(フリップ・アウト)に替えてCRISPR/Cas9によってマーカ・カセットをフリップ・アウトするValcyrie (Versatile and adjustable labelling of clones by random CRISPR-induced excision)法を開発した。
  • Valcyrieは、Cas9とgRNAの発現およびCRISPR gRNAと標的の間の相補性によって、フリップアウトの時期と頻度を調節可能にする。