(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160415)
  • Corresponding authors: Rong ChenEric E. SchadtStephen H. Friend (Icahn School of Medicine at Mount Sinai)
  • レジリエント・プロジェクト(*)を進めているIcahn School of Medicine at Mount Sinaiの研究者を中心とする国際研究チームは、浸透性の高い小児メンデル遺伝性疾患の病因遺伝子を保有するにもかかわらず、臨床症状を全く示さない成人(resilient adults)の探索を目指した。 
    (*) “レジリエンスプロジェクトは、人々を疾病から保護する隠れた因子を発見することを目的としている
  • OMIMデータベースには6,000を超えるメンデル遺伝病が収録されている。Human Gene Mutation Database (HGMD)には、150,000以上の疾患関連変異が収録されている。ゲノムワイド関連解析(GWAS)、全エクソーム解析(WES)ならびに全ゲノム解析(EWGS)から疾患に関連するDNA変異が大量に同定されてきているが、それに基づいた療法の開発はほとんどの疾患について進んでいない。その原因の一つは、機能損失変異(LoF)が起きている場合、タンパク質の活性を低分子によって回復することが困難なことにある。この、難しさは、病因変異の影響を抑制する遺伝因子や環境因子を解析することで一部解決することが可能である。
  • 研究チームは、23andMe(データ利用に同意を得た顧客)、1,000ゲノム英国10Kプロジェクトなどの12コホート由来589,306人のゲノムにおける584遺伝病関連874遺伝子のシーケンシング/ジェノタイピングの結果のデータをクレンジングし(信頼性の高いデータを選択し)、専門家による査定を経た健康データと付き合わせて、8種類の小児性メンデル遺伝病について病因変異を保有しながら臨床症状を示さない成人13名を同定することに成功した。こうした個人を探索し、病因遺伝子の影響を和らげる遺伝子因子(以下、保護因子)を明らかにしていくことが、メンデル遺伝病の発症機序の解明と新たな療法の開発の一助となる。
  • 概念実証を達成した一方で、今回の解析の際に被験者と交わした同意条件から再接触することが不可能なため、13名を対象としたより精度の高い解析に進むことができない。レジリエンス・プロジェクトは今後、個人の協力を受け付けるWebサイト開設を含めて、国内外の活動と協調しながら保護因子特定を目指して大規模な解析に乗り出す。