(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160421)
  1. [論文] Zhangチームが発掘したCpf1を、Charpentierチームが磨くEmmanuelle Charpentier (Umeå University/Helmholtz Centre for Infection Research/Max Planck Institute for Infection Biology/Hannover Medical School)
    [出典] 
    Ines Fonfara et al. “The CRISPR-associated DNA-cleaving enzyme Cpf1 also processes precursor CRISPR RNA.” Nature. Published online 2016 Apr 20.
    • [復習]
      • バクテリアとアーケアの獲得免疫機構として進化してきたCRISPR/Casシステムは多様である。その中で主として研究対象となってきたタイプⅠ/Ⅱ/Ⅲは、CRISPR関連(Cas)タンパク質として、成熟CRISPR RNAs(crRNAs)を産生するタンパク質と、侵入核酸に干渉するタンパク質の2種類を備えている。
      • タイプⅠとⅢの場合、Cas6またはCas5dが、crRNA前駆体(pre-crRNA)を切断し、それによって生成された成熟crRNAsがCasタンパク質複合体(タイプⅠではCascade-Cas3;タイプⅢではCsmまたはCmr)をガイドし、侵入DNAまたはRNAを切断する。
      • タイプⅡの場合、RNase Ⅲが、Cas9の存在下でtrans-activating crRNA(tracrRNA)と結合しているpre-crRNAを切断し、それによって生成された成熟tracrRNA-crRNA二重鎖がCas9を標的DNA切断へとガイドする。
      [今回]
      • Francisella novicida 由来タイプⅤ-A Cpf1が一人2役のヌクレアーゼであることを見出した。すなわち、Cpf1はcrRNAの生成と標的DNA干渉の双方を担っている。
      • Cpf1は、CRISPRリピート内に形成されるヘアピン構造の上流でpre-crRNAを切断してcrRNAsの “中間体”を生成し、成熟crRNAsへと誘導し、続いて、成熟crRNAにガイドされて、DNAの非標的ストランド上の5’-YTN-3’をPAM(*)として認識し、8塩基のシード配列を探索し、標的サイトで DNA二本鎖を切断し、5’末端オーバーハングを生成する。
        (*) TNNよりも多様なPAMを認識することが判明。
      • Cpf1は、DNAもRNAも切断する。Cpf1のRNaseモチーフは、リボース特異的であり、DNAを切断しない。この特異性は、Cpf1とcrRNAの2’-OH基の特異的相互作用に起因する。Cpf1のDNaseモチーフは、DNA二本鎖と一本鎖を切断するが、一本鎖RNA/二本鎖RNA/RNA-DNAヘテロ二本鎖は切断しない。また、Cpf1のRNase活性とDNase活性には、マグネシウムイオンまたはカルシウムイオンの存在下で発揮されるが、その分子機構は現時点では不明である。
    • RNAとDNAの双方を標的とするCRISPR/Casシステムは他にも報告されているが、配列と構造に特異的にRNase活性を示す酵素はCpf1が初めてである。また、Cpf1は最も小規模なCRISPR/Casシステムであり、CIRPSR/Casシステムのツールボックスの拡張に貢献する。
  2. [論文] DNA二本鎖切断を介さずに、ゲノムDNA中の1塩基を編集David R. Liu (Harvard University)
    [出典] 
    Alexis C. Komor et al. “Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage.” Nature. 2016 May 19;533(7603:420–424. Published online 2016 Apr 20.
    • [情報拠点注] 本論文はNature NEWS “Gene-editing hack yields pinpoint precision.” (2016 Apr 20)に取り上げられました。
    • 遺伝病の病因変異の多くは点突然変異であるが、DNA二本鎖切断の修復機構に依存する現行のゲノム編集技術による点変異修復は効率が低く、また、標的サイトにランダムなindelsを生じてしまう。Liuらの研究チームは今回、二本鎖切断や相同組換え用のデンプレートを利用することなく1塩基を非可逆的に他の塩基に置換する ‘base editing’法を開発した。
    • ラットのシチジン脱アミノ酵素(cytidine deaminase enzyme)APOBEC1をdCas9のN末端に融合することで、シチジンをウリジンへと直接変換し、ひいては、C → T または G → A の1塩基置換を実現した。
    • CRISPR/Casシステムによるゲノム編集において、gRNAが結合しない非標的ストランドはCas9に固定されるがPAM認識部位に隣接する領域のごく一部(〜11 bp)は一本鎖のフリーな状態になることと、APOBEC1が一本鎖DNAに限り作用する性質を活かし、APOBEC1とdCas9のリンカーの長さを調節することで、5bpに絞り込んだ領域内での1塩基置換と、ヒト疾患に関連する点突然変異(T → C)の効率的修正をin vitro で実現。
    • In vivo (細胞内)での1塩基編集効率がin vitroの5〜36分の1に低下したことから、一方のストランドだけについて一塩基置換が誘起するミスマッチ修復機構である一塩基除去修復機構の阻害による効率向上を試みた。APOBEC1だけを融合したシステムをBE1と呼び、BE1のdCas9のC末端に ウラシルDNAグリコシダーゼ阻害因子を融合したBE2を開発し効率20%/indels発生率0.1%以下を実現。さらにBE2をさらに改変したBE3を開発。BE3は、効率37%/indels発生率1.1%で実現。BE1, BE2, BE3のいずれもオフターゲット作用は検出限界未満。
    • アルツハイマー病のリスク因子であるAPOE4 変異ならびにがん関連p53変異(Tyr163Cys)の修復も実現。
    • C → T/G → A以外の1塩基置換を可能にすることが次の課題。