1. EndoV-seq法による塩基編集法ABEのゲノムワイド・プロファイリング
[出典] "Genome-wide profiling of adenine base editor specificity by EndoV-seq" Liang P, Xie X [..] Huang J, Songyang Z. Nat Commun. 2019-01-08.
- A-TをG-Cに変換するABE法はヒト細胞、マウス胚およびラット胚で実証されている。また、既知の病原性SNPsのほぼ48%はA-TからG-Cへの変換により修復可能であり、その20%以上はSpCas9をベースにしたABEsで標的可能であり、SpCas9からPAMを拡張したxCas9をベースにしたABEにより修復対象を広げることが可能である。
- しかし、ABEの臨床展開には、ABEのオフターゲット作用を厳密に評価しておく必要がある。
- 中山大学をはじめとする中国と米国の研究グループは今回、オンターゲット編集とオフターゲット編集を共に判定可能なEndoV-seq法を開発して、ABE7.10 (D. R. LiuらによるBE技術レビューのTable 1 参照)のオフターゲット作用を評価した。
- これまでに、Cas9, Cpf1およびBE3によるゲノム編集のオフターゲット作用検出ツールとして開発利用されているDigenome-seqは、使用されている酵素がABEの修飾を受けたDNAを切断できないため、今回、WGS (全ゲノムシーケンシング)によるオフターゲット編集結果の検出の前処理として、in vitroで脱アミノ化されたゲノムDNAをEndonuclease V (EndoV) により消化しておく EndoV-seq法(原論文Fig. 1引用下図参照)を開発した。
- EndoV-seqにより、HEK293T細胞とマウス胎仔由来線維芽細胞において、ABEのオフターゲット編集はCas9の場合の20分の1まで (160.7から8.0へと)低減することが明らかになった。
- 塩基編集 (BE)のオフターゲットに関連するcrisp_bio記事:2018-11-28 BE3とCas9がオフターゲットとオンターゲットに誘導する変異プロファイル2報 ;2018-11-16 D. R. Liuによる塩基編集技術 (BE)のレビューと最新論文
2. ヒトiPSCから誘導したニューロンにおいて、CRISPRiによりニューロンに特異的な遺伝子の機能を同定
[出典]"CRISPR-based platform for multimodal genetic screens in human iPSC-derived neurons" Tian R, Gachechiladze MA, Ludwig CH [..] Ward ME, Kampman M. bioRxiv. 2019-01-07.
- 数百種類の細胞が相互作用する複雑なヒトの組織や器官が、わずか~20,000種類のタンパク質コーディング遺伝子から形作られている。中でも脳は、~1,000億のニューロンが~1,000兆 (10の15乗)のシナプスで結合されている最も複雑な器官である。
- 限られた数のタンパク質コーディング遺伝子からこの複雑さが生み出される仕組みの一つが、同一遺伝子がコンテクスト依存で異なる機能を発揮するためと考えられる。例えば、c-Jun N末端キナーゼ (c-jun N-terminal kinase, JNK)は細胞の種類によって、細胞死あるいは細胞増殖の調節因子として機能する。遺伝子変異の作用もまたコンテクストに依存し、例えば、ニューロンの特定のサブタイプに特異的な作用を及ぼす。したがって、機能ゲノミクスにおいて、遺伝子の機能を細胞の種類ごとに突き止めていく必要がある。
- UCSFとNICHH/NIHの研究チームは今回、先行研究で開発していたiPSCから均一な皮質ニューロンを大量に誘導可能とするi3 Neuronsプラットフォームと、プール型またはアレイ型CRISPRi (dCas9-KRAB)による3種類のスクリーニング (細胞生存・CROP-seqによる一細胞RNA-seq・継時的ハイコンテントイメージグ) を組み合わせて、実験に十分な均一の初代細胞集団の構築がほとんど不可能なニューロンを対象として、癌細胞や幹細胞のCRISPRスクリーンからは得られないニューロンに特有な遺伝子の機能特定を実現した。
- そのノックダウンが、ニューロン生存を左右する遺伝子、ニューロンに特異的なトランスクリプトームをもたらす遺伝子、および、ニューロンの形態に特異的な作用を及ぼす遺伝子、を同定。
- 本手法は、神経変性や精神障害に特異的な遺伝子変異の作用同定にも有用
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