(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160508)
  1. [短報] CRISPRainbowで遺伝子座を7色に‘塗り分ける’:Hanhui Ma (University of Massachusetts Medical School)
    • 3種類のdCas9に3種類の蛍光タンパク質をそれぞれ融合することで遺伝子座を3色に‘塗り分け’、ヒト生細胞中の染色体と遺伝子座の位置決めを可能にした(注)UMMSのH. MaとT. Pederson等は今回、sgRNAを蛍光タンパク質の足場とする手法を採用して、7色‘塗り分け’を実現した。 
      (注)2015年3月17日本サイト掲載記事「CRISPR技術を使った多色ラベル化によって、ヒト生細胞中の染色体と座位の位置決めが可能に」参照
    • セテム領域のA-U塩基対をG-C塩基対に置換し、sgRNAをseed配列の長さに近い短い配列を利用するなどのラベル効率を高めるための最適化を施しながら、MS2、PP7およびboxBの3種類のヘアピンを組み合わせたsgRNAとSp dCas9のプラスミドを導入し蛍光顕微鏡で観察:
      • 3原色:青(MS2/BPF*2)、緑(PP7/GFP*2)および赤(boxB/RFP*2)
      • 2次色:シアン(MS2/BFPとPP7/GFP)、イエロー(PP7/GFPとboxB/RFP)、マゼンダ(boxB/RFPとMS2/BFP)
      • 白色:boxB/RFP、MS2/BFPおよびPP7/GFP
    • ヒト骨肉腫細胞U20S細胞にて、6種類の染色体(X;14;7;1;13;3)上の遺伝子座を同時に6色に‘塗り分け’可能なことを実証
    • また、4種類の染色体(3;9;13;X)の上の遺伝子座を4色に‘塗り分け’、生細胞中での各遺伝子座のそれぞれに特有な動きを50msにわたって追跡可能なことを実証。
    • CRISPRainbow法は、4種類目のRNAアプタマーを導入して15色の‘塗り分け’を可能するなどの拡張が可能。
  2. [RESEARCH HIGHLIGHT] Cpf1の活性機構:Naomi Attar (Editor)
    • Cpf1の結晶構造に関する最近の3論文を簡潔に紹介。
    • Cas9は、RuvCとHNHの2種類のヌクレアーゼドメインで標的DNAを切断する。
    • Cpf1の場合は、Cas9のHNHに対応するヌクレアーゼドメインが不明であった。山野らとDongらはこの第2のヌクレアーゼドメインがホモログを見出せない新奇フォールドを取るドメインであることを見出した。山野らはまた、これがRuvC切断サイトから遠位を切断することでCpf1独特の段違い切断を生じることを示した。さらに、Fonfaraらは、Cpf1がDNAseドメインに加えてRNaseドメインを有し、mRNA前駆体を切断しcrRNAを生成することを見出した。Cpf1はCRISPR/Cas免疫応答のオールインワンの装置であった。
  3. [Correspondence] GUIDE-seqのデータ解析パイプラインのパッケージ化とオープン化:J. Keith JoungMartin J. Aryee (Massachusetts General Hospital)
  4. [論文] CRISPR/Casシステムにおける免疫記憶を編集する:Sylvain Moineau (Université Laval)
    • CRISPR/Casシステムは、微生物が外来核酸配列のプロトスペーサ領域を切り出してCRISPRアレイにスペーサーとして組み込む’adaptation’の過程を経て生成した免疫記憶をもとに、侵入ファージを切断するシステムである。しかし、CRISPRアレイに組み込まれるスペーサーの選択は確率的であり、’adaptation’の研究や操作は困難であった。
    • Streptococcus thermophilus を、予め記憶させたいスペサー(今回はファージ由来のスペーサー配列)を組み込んだ大量のプラスミドで’免疫する’しておくことで、ファージに対する免疫応答を実現。この手法は、短時間・低経費・軽作業量であり、また、’免疫する’に利用したプラスミドは免疫記憶生成後には消滅するという利点がある。
    • 本手法は、複数種類のファージに対する抵抗性を付与するなどの産業応用が容易であり、また、CRISPR/Casシステムの’adaptation’と’interference’の分子機構研究のツールとしても有用である。
    37230001
  5. [Correspondence] ゲノム編集技術ではなくゲノム編集産物を規制せよ:Dana Carroll (University of Utah School of Medicine)
    • ゲノム編集による家畜改良は自然突然変異や選抜育種で生じる変異の枠を超えるものではなく、畜産へのゲノム編集技術の応用はFDAが規制する対象になりえないという主張。事例として牛の除角を取り上げている。
  6. [Correspondence]ゲノム編集による牛の除角:Scott C. Fahrenkrug (Recombinetics)
    • 牛とヒトの安全確保のために牛の除角が必要であり、現在は、侵襲的手段で行われており、また、それには多額の経費を要する。その割合は小さくまた品種によって異なるが、無角の牛が存在する。Fahrenkrugらは、TALEN技術を利用して、無角の牛における無角原因遺伝子を特定し、これを移入することで、有用な特性を維持しながら無角の牛を作出することが可能であり、オフターゲット効果も見られない、と報告した。