[出典] "Engineered CRISPR–Cas12a variants with increased activities and improved targeting ranges for gene, epigenetic and base editing" Kleinstiver  BP, Sousa AA, Walton RT [..] Joung JK. Nat Biotechnol. 2019-02-11.

背景
  • CRISPR-Cas12a (旧名Cpf1)ヌクレアーゼとして特にAcidaminococcus sp. Cas12a (AsCas12a)とLachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12a (LbCas12a)についてSpyCas9にない特長が明らかにされてきたが、PAM配列として5塩基の長さのTTTV (T = A | C | G)を必要とし、標的可能なゲノム領域が限定されることがCas12aの課題であった。Francisella novicida(FnCas12a) やMoraxella bovoculi 237 (MbCas12a) が、他のPAMを認識することが報告されたが、ヒト細胞における活性が必ずしも活性が高くなかった。
  • 中国科学院研究所の研究グループの2019年2月5日Genome Biology誌掲載論文(*1)に続いて、同年2月11日にMassachusetts General Hospital/Broad Institute/HMSのJ. Keith JoungグループによるCas12a機能拡張論文がNature Biotechnology誌から出版された。投稿から出版までの経緯は以下のとおり(投稿/受理/出版日:Genome Biol 2018-07-02/2019-01-03/2019-02-05;Nat Biotechnol 2018-07-05/2019-12-21/2019-02-11)
  • Genome Biology論文では配列検索により同定したCas12aオーソログからPAMの拡張を実現したが、Nature Biotechnology論文では構造情報に基づいたAsCas12aへの変異導入によるPAM拡張が試みられた。
AsCas12aの構造情報に基づいた変異導入によるPAMの拡張
  • Feng Zhangと濡木 理らの研究グループが構造情報に基づいてTATV PAMとTYCV PAMを認識するAsCas12a変異体 (RVRRR)を作出したが (*2)、高密度で柔軟な標的を実現するにはPAMをさらに拡張する必要がある。
  • JoungグループもAsCas12aの構造情報に基づいて、PAM認識の鍵となる正電荷を帯びたアルギニン残基を置換することを選択し、10種類の変異体を作出して評価した。
  • 10種類の中で4種類の変異体 (S170R | E174R | S542R | K548R)がヒト細胞でTTTVとその他一連のPAM配列を認識して高い編集活性を示し、さらに、それらの変異の組み合わせのうちE174R/S542R (以下、2変異体)とE174R/S542R/K548R (以下、3変異体)がTTTV以外のPAMを伴うサイトに対して最も高い活性を示すことを見出した。
  • PAMアッセイ (PAM determination assay, PAMDA)法によりAsCas12a変異体のPAMを判定し、3変異体がTTYN (TTTN/TTCN), VTTV (ATTV/CTTV/GTTV), TRTV (TATV/TGTV)その他のPAMを認識することを同定した。
  • 2変異体と3変異体については、ヒト細胞内での編集活性を測定し、野生型AsCas12aが標的不可能なVTTV、TTTTおよびTTCN/TATVを伴うサイトを標的可能なことを確認した:VTTVとTTCN PAMsを伴う60種類の内在遺伝子に対しては安定な編集活性を示すがVTTT PAMsを伴う遺伝子に対する編集活性は比較的低かった。また、両変異体共に、野生型が標的不可能なTTTT PAMsを伴う5遺伝子に対して編集活性を示した。3変異体はTATV PAMsを伴う12遺伝子に対しても効果的であったが2変異体は編集活性を示さなかった。
  • 3変異体については、ヒト細胞においてより広範なPAMを伴う97サイトに対する編集活性を測定し、標的範囲を野生型の7倍にまで拡張する (DNA 6-bpあたり1ヶ所)ことを見出し、3変異体をenhanced AsCas12a (enAsCas12a)と命名した。
AsCas12a変異体は活性も高い
  • 2変異体およびenAsCas12aは、TTTVを伴う21種類の内在遺伝子に対して、野生型の2倍の編集活性を示した。また、enAsCas12aは、比較的低温 (37, 32 および 25 °C)においても、野生型より高くLbCas12aに匹敵する活性を示した。この特性には、3種類のアミノ酸変異のうちE174Rが最も貢献していることも同定した。さらに、このE174R変異を先行研究由来のAsCas12a変異体のRVRRRに導入すると、TTTN、TATNまたはTYCN PAMsを伴うサイトにおいて、編集活性が1.5~2倍になることを見出した。
  • Poly-crRNAを利用した3遺伝子同時編集小規模なゲノム領域削除においても、enAsCas12aは野生型とLbCas12aと同等以上の活性を示した。
  • DNaseを不活性化したAsCas12aとVPRを融合したCRISPRaシステムについて、3種類の内在遺伝子のプロモーターを標的とする実験も行い、denAsCas12a-が、dAsCas12a-とdLbCas12a-の10〜10,000倍の遺伝子発現活性化をもたらすことを確認した。
  • 塩基編集 (BE)の編集活性を8サイトについて測定し、野生型AsCas12aに基づいたBEの活性は7サイトで 低レベル (< 2%) で残る1カ所で6%であったが、enAsCas12aを元にしたbase editor (enAsBE)は2-34%の編集効率を示した (dLBCas12aは2-19%であった)。
  • さらに、DNAヘの非選択的接触を期待できるアミノ酸置換を試行し、enAsCas12a-N282Aがオンターゲットの活性を損なうことなくオフターゲットを低減することを見出し、enAsCas12a-HF1と命名した (HFはhigh fidelityの意味 (*3))。
  • enAsCas12aもその高精度版enAsCas12a-HF1も、RNP複合体として送達したHEK293T細胞およびヒト初代T細胞において活性を示すことを確認した。
参考crisp_bio記事
  • (*1) 2019-02-06 CRISPR-Cas12aの拡張続く
  • (*2) 2017-06-10 CRISPR Cpf1で標的可能なゲノム領域を3倍に拡張
  • (*3) 2017-06-15 SpCas9-HF1:ゲノム編集の精度をさらに向上させるハイファイ(high-fidelity)CRISPR/Cas9