[出典] "Genetic Screens Reveal FEN1 and APEX2 as BRCA2 Synthetic Lethal Targets" Mengwasser KE, Adeyemi RO, Leng Y, Choi MY, Clairmont C, D'Andrea AD, Elledge SJ. Mol Cell. 2019-01-24.
背景
- 二本鎖DNA切断 (DSB)の修復過程には相同組み換え(HR)、非相同末端結合 (NHEJ)およびマイクロホモロジー媒介末端結合 (Microhomology-mediated end joining, MMEJ)の3種類が存在する。この修復過程に関与する遺伝子は、癌細胞では高頻度で変異している。
- HR修復過程に必須なBRCA1またはBRCA2の変異は、遺伝性の乳癌と卵巣癌の主因であり、いずれかの変異を帯びた女性には80%の乳癌リスクと50%の卵巣癌リスクがあり、高悪性度卵巣癌 (high-grade serous ovarian cancers, HGSOC)患者の~50%にはHR遺伝子変異が見られその30%はBRCA1/2の変異である。なお、BRCA2の変異は膵臓と前立腺の癌の病因にもなり得る。
- BRCA1/2遺伝子が機能不全を起こした細胞は、ポリ (ADP-リボース)ポリメラーゼ (PARP)阻害剤により合成致死に至るが、BRCA1/2遺伝子が正常な細胞はPARPを阻害してもDNA損傷応答が維持される。
- PARP阻害剤がBRCA1/2不全細胞に対して合成致死を誘導する作用機序として、当初、PARP1/2のDNA一本鎖損傷 (SSB)修復機能を阻害する機序が想定されていたが、近年、PARP阻害剤がPAR1/2をSSB部位に物理的に固定し複製フォークの進行を阻害する機序 (PARP trapping)がSSBs集積よりも細胞毒性が強いことが明らかにされた (Murai et al, 2012)。
- 米国FDAはすでにいくつかのPARP阻害剤を抗癌剤として承認したが、一方で、PARP阻害剤に対してBRCA1/2不全の細胞が内因性の耐性を帯びていることや耐性を獲得することが明らかになってきた。
- Harvard Medical SchoolとBrigham and Women’s Hospitalの研究グループは今回、BRCA2の野生型細胞と変異型細胞をペアとしたsnRNAとCRISPR-Cas9に基づくスクリーンにより、DNA損傷応答に関与する遺伝子群からBRCA2変異に合成致死をもたらす阻害剤の標的遺伝子 (BRCA2 synthetic lethal genes, B2SLs)を同定した。
- その結果、BRCA2変異細胞は、塩基除去修復 (BER)、ATR活性化、およびスプライシングを含む多重なパスウエイに依存することを見出し、B2SL遺伝子として、APEX2とFEN1を同定した。
- BRCA2変異細胞は、BERに関与するAP endonucelase/脱プリン部位エンドヌクレアーゼApe2 (APEX2)を必要とし、BERを担うと見られてきたApe1 (APEX1)は必須遺伝子ではなかった。また、APEX1の過剰発現がAPEX2欠損を相補するに至らず、APEX2をB2SL遺伝子と結論するに至った;Ape2はApe1と異なりPCNAに結合して複製フォークに関与し、PCNA結合部位を欠損したApe2は、BRCA2変異細胞に合成致死をもたらす。
- スクリーンからフラップエンドヌクレアーゼFEN1がB2SL遺伝子であることを同定し、FNE1の化学的阻害がBRCA2変異細胞を選択的に細胞死に誘導することを確認し、FEN1がスクリーンから同定したB2SL遺伝子の中で最も強力なB2SL遺伝子であるとした (BRCA2変異細胞は、FEN1の5'末端の突出DNAを切断するフラップエンドヌクレアーゼ活性を必要とし、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性は必要としなかった)。
- 研究グループは、マイクロホモロジー媒介末端結合 (Microhomology-mediated end joining, MMEJ)レポータを開発し、FEN1がBERとともにMMEJにも関与し、相同組み換え修復 (HR)が不全の場合にNHEJよりもMMEJが修復過程として重要なことも明らかにした。
- スプライシング因子のSF3B2とSF1を含むいくつかのB2SL遺伝子がshRNAスクリーンでは同定され(CRISPRスクリーンではヒットせず)、SF3B2の阻害がBRCA2変異細胞を細胞死へ誘導することを確認した。
- 今回新たに同定したB2SL遺伝子は、BRCA変異乳癌、再発性HGSOCおよびPARP阻害剤耐性BRCA変異腫瘍の有力な治療標的であり、その阻害剤は、PARP阻害剤の併用剤あるいはPARP阻害療法後ろの療法として有望である。
- B2SLs同定の他に研究グループは、すべてのRad1パラログおよびPalb2およびBrca2自身の欠損が、卵巣癌と結腸癌由来のBRCA2のエクソン11を欠損した(Rad51結合部位に相当)変異細胞の増殖を亢進することも見出し、ある種のHR阻害剤が癌を悪化させる可能性を示唆した。
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