[出典] "Precise tuning of gene expression levels in mammalian cells" Michaels YS [..] Fulga TA. Nat Commun. 2019-02-18.
  • 遺伝子操作技術の進歩は目覚ましいが、よく使われる遺伝子のノックアウトや過剰発現は、遺伝子発現のオンオフ操作であり、生理的条件での精妙な遺伝子発現調節を再現することができない。そこで、プロモータやリボソームへの結合強度を可変にするライブラリを介して、バクテリアや酵母における遺伝子発現の段階的調節が試みられてきた。
  • University of OxfordとUniversity of Aucklandの研究グループは今回、マイクロRNA応答エレメント (microRNA response elements, MREs)*のライブラリmiRNA silencing-mediated fine-tuners (miSFITs) を合成・構築し、ヒト細胞とマウスにおいて遺伝子発現を段階的に調節することが可能なことを実証した (* 内在MREsは、miRNAの3'末端領域に存在する7塩基長の配列であり、miRNAsの5'末端と塩基対を形成するエレメントである)。
  • 研究グループは、 初めにハイスループット・シーケンシングにより、内在MREs存在下で数千種類の合成MREsの活性を測定し、その結果に基づいて、miSFITsライブラリを構築し(原論文Fig.1 a/b引用下図左参照)、HEK-293T細胞においてPD-1を含む一連の遺伝子でその機能を実証した (原論文Fig. 2 a/b引用下図右参照)。
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  • 続いて、メラノーマ・マウスモデルにおいて、miSFITsを利用して腫瘍抗原の発現を可変的に調節し、抗原の発現レベルが抗腫瘍性免疫応答の決定要因であるとする結果を得た。
  • 最後に、HEK293T細胞において、CRISPR/Cas9が誘導するHDRにより腫瘍抑制遺伝子BRCA1の3' UTRにmiSFITsを挿入し、内在遺伝子の発現を段階的に調節することが可能なことを実証した。
  • miSFITsは、今回の実証実験に加えて、患者由来エフェクターT細胞におけるPD-1やCTLA-4の発現レベルを精妙に調節して癌免疫療法の効用と安全性を高める可能性も秘めている。