1. メルク (Merck KGaA*)のproxy-CRISPRの米国特許成立
[出典] "Merck Receives First U.S. Patent for Improved CRISPR Genome-Editing Method" Merck News Release. 2019-02-19.
- メルク (Merck KGaA*)は2019年2月19日に、「米国FDAが同社のproxy-CRISPR特許を承認した」と発表した。Proxy-CRISPR技術は、野生型のCas9が細胞内においてアクセス困難なDNA領域を標的可能にする技術である (crisp_bio: 次項に詳細あり)。
- 同社のCRISPR関連特許はこれまでオーストラリア、カナダ、欧州、シンガポール、中国、イスラエル、および韓国においてのべ13件が承認されていたが**、米国での特許承認は今回が初である。
- (*) 米国とカナダではEMDセローノ、ミリポアシグマ、EMDパフォーマンスマテリアルズ (EMD: Emanuel Merck, Darmstadt)として事業;米国企業のMerck & Co https://ja.wikipedia.org/wiki/メルク・アンド・カンパニー は、米国以外ではMerck Sharp and Dohme (MSD)として事業
- (**) Merck CRISPR関連特許プレスリリース (一部):2018-08-15 Merck Awarded Australian CRISPR Nickase Patent for Foundational Genome-Editing Technology;2017-06-14 Merck Awarded its First CRISPR Patent by Australian Patent Office (CRISPR ノックイン)
[Proxy-CRISPR論文] "Targeted activation of diverse CRISPR-Cas systems for mammalian genome editing via proximal CRISPR targeting" Chen F, Ding X, Feng Y, Seebeck T, Jiang Y, Davis GD. Nat Commun. 2017-04-07. (著者らの所属機関は、MilliporeSigma (米国)とMerck KGaA (ドイツ)の双方)
- CRISPR-Casシステムの二本鎖DNA (dsDNA)への接近可能性とその切断 (DSB)はクロマチン・コンテクストに依存するとされていた。例えば、in vitro実験で、SpCas9の再構成ヌクレオソーム結合DNAへの接近が阻害されひいてはDSB活性が阻害される結果が得られている。研究グループは、SpCas9とFrancisella novicida U112由来のCas9 (FnCas9)はタイプII-B Cas9 (FnCas9)とSpCas9の特性の比較からproxy-CRISPR技術に至った。
- FnCas9は5′-NGG-3′ PAMを認識してDSBを誘導し5'末端に4-ntのオーバーハングを残し、SpCas9よりもオフターゲット編集が極めて稀であった (原論文Figure 2引用下図左のc-eを参照)。しかしながら、SpCas9よりもオンターゲット活性が低くかった (下図左の b 参照)
- また、SpCas9がヌクレオソーム結合DNAの146-bpをこえる150-500 bpの範囲の遺伝子座に対してほぼ一様なDSB活性を示す一方で、FnCas9はDSB活性を示さないサイトが多数存在した (原論文Figure 3引用上図右参照)。
- そこで、SpCas9の接近可能性をSpCas9を不活性化したSpdCas9として活かし、FnCas9の高い標的選択性を活かすproxy-CRISPRを設計し、SpdCas9が他のCas9の接近可能性を高める分子機構の特定には至らなかったが、その効果を実証した (原論文Figure 4引用下図左参照)。SpdCas9の効果は、タイプ II-C Cas9 Campylobacter jejuni NCTC 11168 (CjCas9)、 Neisseria cinerea (NcCas9)およびタイプ V Cpf1 Francisella novicida (FnCpf1)の野生型単独では標的不可能であった領域の編集も可能にした。
- さらに、proxy-CRISPRによって、遺伝子座内の同一配列を選択的に標的可能なことを、HBBとHBDを標的とするSpdCas9とCjCas9の組み合わせで実証した (原論文Figure 8引用上図右参照)。これは、高い標的選択性が必要なゲノム編集技術において、高精度なSpCas9改変体に無い特徴である。
2. EPO、Broad Instituteの遺伝子編集特許を取り消し
[出典] "EPO overturns Broad Institute gene editing patent" Klos M. Juve Patent 2019-02-20.
- Broad InstituteのCRISPR欧州特許EP27771468は、昨年1月に米国と欧州との特許制度の違いの狭間で取り消されていた (英文詳細 EPO revokes CRISPR patent – a clear cut case of invalid priority? Hughes R. The IPKat. 2018-01-22;crisp_bio記事 CRISPRメモ_2018/01/28 [第2項] [特許]欧州特許庁(EPO)Broad特許を無効に)
- EPOは今回、EP27771468の却下と同様にEP2784162 B1も却下した。なお、EP2896697は一部承認された。EPOには現在338件のCRISPR特許が登録されておりその多くがBroad特許である。Broad特許に対する6件の異議申し立てについて、EPOは、4月15-17日、5月15-17日および7月4-5日にヒアリングを予定している。
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