1. CRISPR-Cas9による成体ラット脳におけるニューロン特異的ゲノム改変
[出典] "Neuron-Specific Genome Modification in the Adult Rat Brain Using CRISPR-Cas9” Transgenic Rats" Bäck S [..] Harvey BK. Neuron. 2019-02-18.
  • ラットは、薬物乱用などによる脳障害やパーキンソン病が中脳のドーパミン作動性ニューロンの機能改変を介して行動に影響を与える分子機序の研究モデルとして、適している。米国NIH Intramural Research ProgramにU. Texas Southwestern Medical CenterとU. Helsinkiが加わった研究グループは今回CRISPR-Cas9技術を利用して、成体ラット脳における特定のニューロンのゲノムを選択的に改変可能とするウイルスベクターやトランスジェニック・ラットなどのツールを開発した。
  • はじめに、Cas9またはgRNAsを発現するAAVベクターを利用して、野生型ラットからチロシンをドーパミン前駆体へと変換する酵素チロシンヒドロキシラーゼをノックアウトした。
  • 次いで、Cre依存性Cas9を帯びたLSL-Cas9ラット, 精原幹細胞にCas9ニッカーゼをSpCas9でノックインすることで作出したLSL-nickaseラット、および、ラット・ドーパミン・トランスポーター・プロモータの配下で"Improved Creリコンビナーゼ"を発現するDAT-iCreラット、および、LSL-Cas9とDAT-iCreラットを交配した系において、AAVベクターでCre依存性gRNAsをラット中脳へ送達することで、中脳において、細胞型そしてまたは領域特異的にドーパミン作動性ニューロンにおける遺伝子ノックアウトを実現した。
  • 今回構築したラットゲノム改変プラットフォームは、ドーパミン作動性ニューロンに限らず、また、成体ラット脳さらにはその他のCre発現組織において、細胞特異的かつ配列特異的ゲノム改変を加えることを可能とする。
2. Xistのサイレンシング・ドメインを、タイリングCRISPRで同定
[出典] "Identification of a Xist silencing domain by Tiling CRISPR" Wang Y [..] Li Z, Zhao JC. Sci Rep. 2019-02-20.
  • 発生過程と疾患に深く関与している長鎖非コードRNAs (lncRNAs)を調節するシスエレメントを同定する手法がこれまで無かったところ、Sanford Burnham Prebys Medical Discovery InstituteとGenomics Institute of the Novartis Research Foundationの研究チームは、 lncRNAの機能ドメインを同定可能とする"Tiling CRISPR"と称する手法を開発した。
  • 1,527 sgRNAsに基づく"Tiling CRISPR"により、代表的なlncRNAの一つであり、遺伝子や染色体全体を不活性化するXistの機能ドメインを解析し、「5'末端のリピート領域 "Xist A -リピート"がサイレンシング・ドメインである」と同定した。これはこれまでの報告と整合する結果であったが、機能解析から、Xist A - リピートがXistの転写を促進することも見出した。
3. CRISPR KOとRNAiノックダウンを組み合わせることで、有糸分裂の際の紡錘体形成チェックポイントシグナル伝達がBub1とRZZ複合体の協働に依存することを同定
[出典] "Efficient mitotic checkpoint signaling depends on integrated activities of Bub1 and the RZZ complex" Zhang G, Kruse T, Guasch Boldú C, Garvanska DH, Coscia F, Mann M, Barisic M, Nilsson J. EMBO J. 2019-02-19.
  • 動原体に局在するタンパク質Mad1が、紡錘体の赤道面に整列していない染色体の動原体に局在して"wait anaphase"シグナルを発して紡錘体形成チェックポイント (Spindle Assembly Checkpoint, SAC)を起動し、有糸分裂時に染色体の正確な分配を実現する (ライフサイエンス新着論文レビュー引用下図参照)。染色体の分配と紡錘体形成チェックポイント
  • 哺乳類細胞ではMad1に対する動原体の受容体として、Bub1とRod‐Zw10‐Zwilch (RZZ)複合体が知られているが、それらの機能については諸説あった。
  • University of Copenhagenを中心とするデンマークの研究グループは、CRISPR/Cas9 KOとRNAiノックダウンを組み合わせることで、ヒト細胞からBub1とRodを完全に除去し、SACシグナル伝達が両者の協働作用に依存することを明らかにした。RZZの主要な機能は、Mad1を動原体に局在させ、Mad1-Bub1複合体形成を誘導することにあった。
4. [プロトコル] リンパ腫細胞株におけるCRISPR-Cas9による機能喪失スクリーニング法
[出典] "Protocols for CRISPR-Cas9 Screening in Lymphoma Cell Lines" Webster DE, Roulland S, Phelan JD. In: Küppers R. (eds) Lymphoma. Methods in Molecular Biology. 2019-02-19.

5. CRISPR-Cas9によるDSBからの修復過程で、オンターゲット部位に予期せざる病原性'bystabder'変異が発生する
[出典] "A large CRISPR-induced bystander mutation causes immune dysregulation" Simeonov DR, Brandt AJ [..] Marson A. Commun Biol. 2019-02-18
  • UCSF, UC Berkeleyなどの研究グループは、マウスにおいてCRISPR-Cas9によりサイズ~360 bpのエンハンサーを削除した際に、削除領域に隣接した配列~24 kbの縦列重複を介して、免疫不全が発生することを見出した。
6. 標的のH3K27Me3修飾を実現するCRISPR/dCas9-EZH2システムの構築と評価
[出典] "Construction and validation of the CRISPR/dCas9-EZH2 system for targeted H3K27Me3 modification" Chen X [..] Yang X, Song Y. Biochem Biophys Res Commun. 2019-02-20.
  • CRISPR/dCas9-EZH2システムをsgRNA-PP7 RNAアプタマー, PP7コートタンパク質(PCP)に融合したヒストンメチル基転移酵素EZH2 (EH2)、そしてdCas9で構築した。dCas9/sgRNA-PP7に誘導されたPCP-EZH2は標的遺伝子座をヒストン修飾する。
  • C/ebpαプロモーターを標的とするCRISPR/dCas9-EZH2システムにより、プロモーターのH3K27のトリメチル化を介してC/ebpα遺伝子の発現抑制を実現した。この修飾は娘細胞に継承された。
7. クロマチン構造が2種類のDSB修復機構, NHEJとHDR, に与える影響をアッセイ
[出典] "The chromatin structure of CRISPR-Cas9 target sequences controls the balance between mutagenic and homology-directed gene editing events" Janssen JM, Chen X, Liu J, Gonçalves MAFV. Mol Ther Nucleic Acids. 2019-20-20.
  • Leiden University Medical Centerの研究チームの報告:NEHJのユークロマチンにおける活性はヘテロクロマチンより有意に高くなるが、HDRの活性はクロマチン構造にはそれほど依存しない。
  • したがって、"オープン"なユークロマチン状態の標的配列が、ドナーDNAによって"クローズド"なヘテロクロマチン状態をとるようになると、HDRはNHEJに対して相対的に活性が高まる。
  • この現象は、ドナーDNAのデリバリー法には依存しない。また、Cas9にGemininを融合することでヌクレアーゼの活性をG2/S期に制約することで、クロマチン構造のいかんにかかわらず、HDR/NHEJの比率を高めることが可能。
8. [レビュー] 食品科学と農業科学におけるCRISPR-Cas9ゲノム編集の利用:現状、展望および課題
[出典] REVIEW "The application of the CRISPR-Cas9 genome editing machinery in food and agricultural science: Current status, future perspectives, and associated challenges" Eş I [..] Barba FJ. Biotechnology Advances. 2019-02-16.