(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/05/28)
  • Corresponding author: Seok-Yong Lee (Duke University Medical Center)
  • 病原菌の細胞壁ペプチドグリカンは、抗生物質の標的である。ペプチドグリカン合成酵素の一つであるペニシリン結合タンパク質を標的とするペニシリンをはじめとするβ-ラクタム系抗菌薬が開発され、さらに、その耐性菌に対して、細胞壁合成酵素の基質であるD-アラニル-D-アラニルに結合するバンコマイシンが開発されたが、β-ラクタム系抗菌薬バンコマイシンの双方に対する耐性菌が生まれ、新たな分子機構を介した抗菌剤の開発が求められている。
  • ペプチドグリカン合成酵素の一つであるMraYを阻害するヌクレオシド系天然物が知られていたが、抗生物質として臨床応用にまで至っていなかった。今回、Duke大学と北海道大学の共同研究チームは、超好熱菌Aquifex aeolicus 由来のMraYと、放線菌から分離されたヌクレオシド系天然物の一種であるムライマイシン類のmuraymycin D2 (以下、MD2)との複合体構造をX線結晶構造解析によって2.95 Åの分解能で解き(挿入図参照) 、さらに、変異導入・等温滴定型熱量測定実験によってMraYとMD2の複合体形成に関与するアミノ酸残基を特定した。
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  • アポ状態のMraY(PDB ID 4J72)と複合体との構造比較から、MD2はアロステリック作用によってMraYを阻害することが明らかになった。MD2結合時にMraAAはコンフォメーションを大きく変化させ、MD2はMraAAの活性を担うアミノ酸残基やMg2+とは異なるポケットに結合する。