(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/03)
- Corresponding authors: Neal Rosen (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center); Kevan M. Shokat (UCSF)
- 精密医療がもたらす選択圧によって腫瘍細胞の中の薬剤耐性サブポプレーションが増殖する。この腫瘍細胞の進化に対応するために常に次世代の療法が求められることになる。mTOR阻害剤もその例外ではない。
- PIK3CA–AKT–mTORパスウエイは、ヒトのがん共通に活性化されているパスウエイの一つであり、パスウエイの構成要素は抗がん剤の標的候補である。
- mTOR阻害剤として、いわゆる第1世代のラパマイシン類似体のrapalogsに続いて、第2世代のAZD8055(TORKi、ATPと拮抗)の治験が進行中である。
- Rapalogsに対してはすでに耐性が生じることが報告されており、第2世代薬剤に対しても耐性が生じるであろう。
- 今回、乳がん細胞をラパマイシンまたはAZD8055と共培養して、耐性変異が発生する機構の解明を試みた。
- 3ヶ月の培養の間に殆どのがん細胞が死滅したが、少数は生存しかつ増幅した。
- ラパマイシン耐性細胞ではFRB(FKBP12結合ドメイン)にA2034VとF2108Lの変異が起きていた。一方で、AZD8055耐性細胞にはキナーゼドメイン(以下、KD)にM2327Iの変異が起きており、キナーゼ活性が亢進していた。驚くべきことに、これらの変異は、薬剤を投与する以前の患者にも存在した。すなわち、第2世代mTOR阻害剤への耐性機構がすでに存在することが明らかになった。
- 第1世代と第2世代に耐性を得たがん細胞に有効な第3世代のmTOR阻害剤の開発に着手した。
- PDB登録のmTOR結晶構造(1FAP;4JT5)に共通するFRBドメインを参照して、mTORとラパマイシン-FKBP12との複合体の構造をモデリングし、ラパマイシンが結合するポケットとAZD8055が結合するポケットが3次元構造上隣接していることを見出した。
- そこで、ラパマイシンとaZD8055をリンカーで接続し、双方のポケットに結合する阻害剤Rapalinkを設計・作出し、第mTORに対する親和性が1世代と第2世代よりも高い第3世代を実現した。
- このような’bitopic’な阻害剤が、GPCRに対しては親和性と特異性の向上を目指して合成されてきているが、キナーゼ阻害剤として知られているのは唯一、CDK2/cyclin-Aを阻害する内在性の分子p27である。
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