[出典] "Genome-wide target specificity of CRISPR RNA-guided adenine base editors" Kim D, Kim D, Lee G, Cho SI, Kim JS. Nat Biotechnology. 2019-03-04.
J. S. Kimグループによるこれまでのオフターゲット解析
- 2015年:CRISPR-Cas9のオフターゲット作用をゲノムワイドで判定する検出限界0.1%のDigenome-seq法を開発
- 2017年:Cas9を標的としたオリジナルのDigenome-seqに、BE3ΔUGIタンパク質とウラシル除去酵素 (USER)を加えることで、BE3を標的とするDSB活性ひいてはオフターゲット活性の判定を可能とし、BE3のDSBはゲノムワイドで18 ± 9ヶ所にとどまると報告 (Nat Biotechnol, 2017)
- 2018年:BE3とそのオフターゲット判定法に関する特許を申請した (特許公開日 2018-09-13)。
- HEK293T細胞において、HEK2、HEK3およびRNF2を標的として、ハイスループットDNAシーケンシングにより、一塩基置換またはindelsの発生 (以下、活性)が、完全一致および1-4塩基のミスマッチを帯びたsgRNAsにどのように依存するか、解析した。
- いずれの手法についても、1-2 ミスマッチのsgRNAは活性を与え、3-4ミスマッチのsgRNAsはほとんどの場合活性を与えない傾向は、共通していた。
- しかし、同一のsgRNAに対する活性が三者の間で0%から80%まで変動し、活性を与えるミスマッチのパターンが手法間で異なることは (原論文Supplementary Table 1)、ABE7.10のオフターゲット作用を偏りなく判定する手法の開発が必要なことを示唆した。
Digenome-seqによるABE7.10オフターゲット編集活性判定
- Digenome-seqはin vitroでのDNA DSBs生成に依存することから、はじめに、ABEを構成するアデニンデアミネーションの産物であるイノシンを含むサイトへのDSB誘導を、イノシン特異的DNA修復酵素 (E. coliエンドヌクレアーゼ (Endo V)、または、ヒトアルキルアデニンDNAグリコシラーゼ (hAAG)とエンドヌクレアーゼVIII (Endo VIII)の組み合わせ)を、ABE7.10に加えることで実現した (原論文Fig. 2とSupplementary Figure 2参照)。
判定結果
- WGSデータに基づくDNA切断スコアを定義・算出し、HEK2を標的とするABE7.10+Endo VとABE7.10+hAAG/Endo VIIIが編集活性を示すサイトとしてそれぞれ、17サイトと18サイトを同定した。そのうち、sgRNAに対するオンターゲットサイトを含めて16サイトが共通であった。
- 続いて、ABE7.10+Endo Vにより、HEK2に加えて、RNF2、TYRO3、WEE1、EphB4、HPRT-Exon6およびHPRT-Exon8の6種類を標的とするsgRNAを使用した場合の編集活性を判定し、HEK2標的とした場合も含めて57サイト、sgRNAごとに1-28サイト (1sgRNAあたり平均8 ± 4)の結果を得た。
- ABE7.10+Endo Vの結果と、今回と同一のsgRNAによるBE3とSpCas9の結果 (先行研究から)と編集活性サイト数を比較した。ABE7.10+Endo V/BE3/SpCas9それぞれについて、HEK2 sgRNAについては17/2/35、RNF2 sgRNAについては5/1/13の結果を得た。この中で、ABE7.10サイトにはBE3サイトが全て含まれたが、SpCas9サイトはABE7.10サイトの半分前後を含むにとどまった。
- ここまでの解析にはDigenome 1.0を使用していたところDigenome 2.0による解析も試み、7 sgRNAsに対して、オンターゲットサイトと前述の57サイトを含むのべ193サイト (1 sgRNAあたり平均60 ± 20サイト、1-28サイトの範囲)を同定した。オンターゲットサイトでの塩基置換率は29-72%の範囲であり、オフターゲットサイトでの塩基編集率は0.1%-7.8%の範囲であった。
- 上記193サイトについてBE3およびCas9による編集結果も判定し、3手法のオフターゲット活性のプロファイルが異なることを再び確認した。
ABE7.10オフターゲット活性の抑制
- 標準的sgRNAsの5'末端にGまたはGGを加えて伸長したsgRNAsによりオンターゲット編集活性を損なうことなくオフターゲット編集活性が抑制されることを見出した。HPRT–exon 6では、オンターゲット/オフターゲットの比が2倍から26倍へと向上した。sgRNAsの短縮のオフターゲット抑制効果は見られなかった。
- また、ABE7.10をプラスミドで送達するよりもRNPとして送達すること、または、Cas9をSniper-Cas9 (2018-08-08 crisp_bio 第2項 参照)に替えることで、オンターゲット/オフターゲットの比が7倍へと向上した。
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