(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/12)
  • Corresponding author: Sven Eyckerman (VIB Medical Biotechnology Center/Ghent University)
  • 細胞内のタンパク質を定量する技術は生命科学に必須であるが、既存の定量法には一長一短ある。抗体を利用するウェスタンブロッティングやELISAは高感度で比較的簡便であるが、抗体の品質やエピトープマスキングなど精密な定量測定に対する阻害要因が内在する。
  • 抗体を必要としない液体クロマトグラフ質量分析に基づく選択反応モニタリング(selective reaction monitoring (SRM)/Multiple Reaction Monitoring(MRM))は、大規模解析の実現を困難にする標的タンパク質に特異的なペプチド(proteotypic reporter peptides)を必要とする。
  • 今回、S. Eyckermanらは、Lennart MartensのバイオインフォマティクスならびにKris Gevaertのプロテオミクスの研究グループと共同で、標的タンパク質ごとの実験条件最適化を不要にするProteotypic peptides for Quantification by SRM (PQS) を開発した。
  • 質量分析に適した特性を持ちかつほとんどのモデル生物(真核生物とE. coli )には存在しないタンパク質ペプチドを、超好熱菌Pyrococcus furiosus のプロテオームから、参考図1のワークフローに沿って絞り込んだ:EAVSEILETS (以下、PQS1)と GLGASPGIGAGR (以下、PQS2)の2種類。
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  • HCT116細胞溶解液中でのPQS1とPQS2の検出感度を確認した後、FLAG-PQS1タグとMyc-PQS2タグを含むベクターを利用して、MYD88とMAL、p53とMDM2などの相互作用解析を実現した。
  • さらに、アデノ随伴ウイルスを利用したCRISPR/Cas9技術によって、C末端に3xFLAG-PQS1タグを付したp53タンパク質を発現するHCT116細胞株と、同様に3xHA-PQS2タグを付したMDM2を発現するHCT細胞株を樹立し、それぞれのタンパク質の精製が可能なことを確認した。また、タグ付MDM2細胞株のp53に3xFLAG-PQS1タグを付した細胞株も樹立し、定量的共免疫沈降解析を実現した(参考図2参照)。
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  • PQSやCRISPR/Cas9技術がタンパク質のフォールディングや転写翻訳過程に影響を与える可能性の排除(例 ’Inntag’設計)や、さらなる精度向上(例 PQSの連結)など、PQS利用技術にはまだま改良の余地がある。
論文→Giel Vandemoortele et al. “An extra dimension in protein tagging by quantifying universal proteotypic peptides using targeted proteomics.” Sci. Rep. 2016 Jun 6;6:27220.