(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/16)
  1. [NEWS AND VIEWS] スクリーニングの観点からCRISPRとRNAiを比較する
    • Corresponding authors: Benjamin E. HousdenNorbert Perrimon (Harvard Medical School)
    • Nature Biotechnology 6月号掲載“NEWS AND VIEWS”は、CRSIPRとRNAiによる機能喪失スクリーニングを比較した同号掲載の2論文を取り上げた:
      1. Rene Bernardsら:“必須遺伝子の同定法として、CRISPR/Cas9によるノックアウト・スクリーニングはshRNAとCRISPRiを凌駕する”(CRISPR関連文献メモ_2016/05/01(9件) - 1)
      2. Michael C. Bassikら:“腫瘍細胞の必須遺伝子同定に、RNAiとCRISPR/Cas9は相補する”を紹介(CRISPR関連文献メモ_2016/05/11(2件) - 1)
    • 論文a)と論文b)のCRISPRとRNAiの比較評価には差が出た。
    • いずれも必須/非必須遺伝子の’gold-standard’を対象とし、sgRNAとshRNAのプール・ライブラリーとディープシーケンシングによる評価と類似したプロトコルによって行われたが、論文a)と論文b)のライブラリーの設計に差があった。論文b)のsgRNAライブラリーは論文a)より単純である一方で、shRNAライブラリーはより複雑であった。しかし、この違いが結果の違いをもたらしたかは判然としない。
    • 論文b)によると必須遺伝子が3群に分かれた:
      • 双方が必須と判定した遺伝子:真の必須遺伝子と思われる
      • CRISPRだけが必須と判定した遺伝子:転写に関連したGO(gene ontology)タームがエンリッチされていた
      • RNAiだけが必須と判定した遺伝子:明確な傾向が見られない(NEWS AND VIEWSでは考察されている)
    • NEWS AND VIEWSは、双方を併用することを勧めている。
  2. [NEWS] CRISPRはRNAを編集するツールボックスにもなる
    • Author: Karen Weintraub (Scientific American )
    • CRISPR技術によるRNA編集を報告したScience 誌とCell 誌掲載の2論文を取り上げたエッセイ
      1. Omar O. Abudayyehら “クラス2タイプVI-A CRISPR/CasエフェクターC2c2の標的は一本鎖RNAである”(CRISPR関連文献メモ_2016/06/05(3件) - 1)
      2. David A. Nellesら “RCas9: dCas9のRNA認識を可能にし、生細胞内でRNAを追跡”(ニュースウオッチ掲載記事タイトル)
      論文a)のシニアオーサーFeng Zhangと Eugene V. Kooninならびに論文b)のシニアオーサーGene W. Yeoからのコメントを掲載。動物細胞に初めて適用したのはFeng Zhangグループであったが、CRISPR技術によるRNA編集を初めて動物細胞に適用したのは、論文b)の共著者であるJennifer Doudnaグループであった。
  3. [レビュー] CRISPR技術の研究利用に必要なgRNAの設計ツール
    • Corresponding author: Stephanie E. Mohr (Harvard Medical School)
    • gRNA設計は利用目的によって異なる(NHEJ過程を介した遺伝子ノックアウト、CRISPRa(活性化)あるいはCRISPRi(阻害)の利用目的に合わせた設計指針がTable 1にまとめられている)
    • gRNA設計ツールをまとめたレビューやWebサイトを取り上げているが個々の評価はされていないが、gRNAを選択するワークフローがFigure 1に示されている:(Webサイトの例)AddGeneCRISPR Software MatchmakerE-CRISPCHOPCHOPCRISPR DirectCRISPR-ERADesign sgRNAsBenchlingDesktop
    • gRNAの設計にあたり遺伝子アノテーションの品質が重要であり、ヒトゲノムを始めとするゲノムアノテーションが随時更新されることからツールの更新時期・頻度に留意すべき(ヒト遺伝子FAM83Aにて例示)
    • フォローアップ実験による検証が重要
    • オフターゲット作用と遺伝子編集効率に関する実験データを蓄積していく必要がある
  4. [論文] バイオマス由来の合成ガスを化合物や液体燃料に変換可能な Clostridium ljungdahlii の効率的ゲノム編集
    • Corresponding author: Weihong Jiang (Institute of Plant Physiolocy & Ecology)
    • CRISOR/Cas9によって嫌気性酢酸生産菌(Acetone)の一種 Clostridium ljungdahlii の効率的ゲノム編集を実現
    • 2種類のプロモーター (PthlとParaE)を使用してcas9 を発現し、4種類の遺伝子、pta , adhE1rtf およびpyrEのノックアウトをそれぞれ100%、>75%、100%、および>50%の効率で実現。
  5. [WORLD VIEW] 遺伝子ドライブ研究がオープンサイエンスをドライブする
    • Author: Kevin Esvelt (MIT Media Lab)
    • 遺伝子ドライブはある種の1個体が全世界の集団を改変する可能を秘めた技術である。従って、遺伝子ドライブ研究者は一般社会に対して閉じられた扉の中で研究を進めることは許されない。そこで、遺伝子ドライブ研究コミュニティーは近々、研究計画と研究内容を広く共有可能にする“Responsive Science Project”を立ち上げる。
    • 激しい競争の中でこれまで研究社会の中でも互いにアイデアを共有することは稀であり、また、原爆を開発したオッペンハイマーが言ったように“研究者は好奇心をそそる技術開発を進め、技術開発に成功した後にその技術をどう扱えば良いか議論する”。
    • 遺伝子ドライブ研究コミュニティーは、よりオープンで社会的責任を意識した“science ecosystem”をドライブする。
    • 導入部で、米国National Academies of Sciencesが発表した遺伝子ドライブのガイドラインに言及
  6. [論文] CRISPRでゲノム編集された穀類は、規制に縛られることなく、マーケットへ
    • Author: Emily Waltz (Science journalist)
    • 米国USDAは、DuPont PioneerWx1 遺伝子ノックアウトによる分岐鎖状多糖体のアミロペクチンだけを含むトウモロコシや、Penn StateのYinong Yangのポリフェノールオキシダーゼをコードする遺伝子の1つをノックアウトして褐変を防止したキノコは、米国USDAの規制に縛られることなく、栽培・販売可能であると、それぞれの関係者への2016年4月のレターで表明した。外来遺伝子を含まないからである。
    • USDAの規制対象外になったが、米国FDAとEPAによるレビューが行われる可能性がある。