(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/20)
  • Authors: Nicola Nosengo (Science & technology writer)
  • 脳梗塞薬から双極性障害薬候補となったエブセレン(ebselen)、狭心症治療薬からED治療薬となったシルデナフィル (VIAGRA®)、がん化学療法薬からHIV薬となったアジドチミジンのようなセレンディピティによるドラッグリポジショニング (DR)が、バイオインフォマティクスやハイスループットスクリーニングの進歩によって、システマティックに行われるようになった。
  • 製薬会社はDRに対して創薬コストの観点から関心を持っている。
    • 現在、米国における試算では、創薬1件あたり概ね13〜15年と20〜30億US$を要する一方で、10億ドルあたりのFDA認可薬の数は年々減少している(マイクロプロセッサーの処理能力が年々倍増するとするMoore’s lawの逆の傾向ということで一部ではEroom’s lawと呼ばれている)。
    • 第1相試験をスキップできるとして、DRのコストは6.5年の期間と3億US$とする試算があり、また、DRの可能性は75%と見る専門家もいる。一方で、第2相試験と第3相試験で挫折する確率は高く、また、特許の問題もあり、DRの経済的評価が定まっていないとする意見もある。
  • DRが盛んになっていることを示す数字がある。
    • 現在、2011年の6倍に当たる毎月概ね30編のDR論文が発表されており、昨年には、専門誌Drug Repurposing, Reuse and Repositioning が発刊された。
    • 毎年3〜4のDRベンチャーが設立されている。
  • DRの出発点は?
    • ジェネリック医薬品のデータを網羅することからのDR:オリジナルの特許が切れ、安価で、処方や適用疾患によって特許や一定期間の市場独占が認められる;(例)抗うつ薬ピリンドールを多発性硬化症薬へ (Biovista社)
    • オフラベルの利用結果獲得・集積からのDRの事例:臨床現場ではオフラベルで処方されるがそうしたデータのほとんどが表には出てきていなかった;(例)狭心症薬ジピリダモールをドライアイ治療薬へ (Moshe Rogosnitzkyら) )
    • 第1相試験で挫折した化合物のデータを網羅することからのDR:製薬会社から公開される化合物は限定的であることから、公開情報からそうした化合物を特定する試みがなされている;英国Medical Research Council (MRC)と米国National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS)の双方がそれぞれ、大手製薬企業から「見捨てられた」化合物をアカデミア研究に提供する枠組みを構築;
  • DRベンチャーが大手製薬企業と競合していく未来を見ている関係者がいる一方で、「見捨てられた化合物」がDRに結びつく可能性は低いとする見解もある。
  • NEWS FEATUREは、UCSFのAtul Butteのコメント“従来の創薬(新たな低分子の発見)とDRは相補的”であり“一つの疾患が実はいくつもの疾患に分類されることが続々と明らかにされていることから、それらすべての治療薬を開発する製薬企業の数はまだまだ不足している”で結ばれている。