(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/27)
  1. [論文] 内在タンパク質のハイスループットGFPタギング(tagging)によるスケーラブルなヒト・プロテオーム解析
    • Corresponding authors: Daichi KamiyamaJonathan S. WeissmanBo Huang (UCSF)
    • UCSFの研究チームは、ヒト・プロテオームの解析に必要な4つの要件を満たし、細胞動態への影響を最小限に留めるタギング法を開発した:
      • スケーラビリティー:一定時間内に多数の遺伝子にタグ付け可能かつ低コスト
      • 特異性:標的遺伝子に限定されたタグ挿入(“scarless”:選択用マーカー遺伝子のようなDNA挿入を排除)
      • タグの多能性:タンパク質の局在性と機能の解析を可能に
      • ノックイン細胞の選択を可能に
    • CRISPR/Cas9技術とsplit-GFP技術の融合
      • Split-GFP:GFPを、11番目のβストランド(GFPの215-230aa)とGFP1-10とに分割して利用;GFP11とGFP1-10は単独では蛍光を発しないが、GFP11でタギングしたタンパク質とGFP1-10が同一細胞で会合すれば蛍光を発する;GFP11が16aaと小断片であることによって、CRISPR/Cas9技術との融合が実現。
      • Cas9/sgRNA:Cas9とsgRNAのリボ核タンパク質(RNP)と、GFP11に相当する〜60ntを相同組換え(HDR)用アーム(70nt一組)で挟んだssDNAを、GFP1-10を恒常的に発現させている細胞(293T細胞)へとエレクトロポーレーション。
      • 48種類の遺伝子を標的としてGFPの蛍光がタンパク質の発現レベルと相関することを確認
      • GPFリピートのノックインによって細胞内発現量が低いタンパク質の検出が可能なことを実証
      • GPF11タギンングによって、内在するタンパク質複合体をそのままの状態で分離し解析可能なことを実証:コヒーシン (SMC1とSMC3);トランスコロン (SEC61B, SEC61AとSEC61G);クラスリン;SPOTS (SPTLC1, SPTLC2とORMDL1/2/)。
      • 一部本手法では検出できない高発現タンパク質が存在するが解決可能である: 
        • Cas9/sgRNAが標的ゲノム配列に到達できない可能性(ヌクレオソーム高占有など)〜sgRNAの設計で解決
        • GFP11とGFP1-10が会合できない可能性(GFP11がタンパク質ポケット内に結合など)〜GPF11のリンカーの長さで解決
  2. [論文] CRISPR/Cas9とTALENsの比較:HEK293FT細胞ゲノムに組み込んだEGFPの編集
    • Corresponding authors: Zuyong He (Sun Yat-sen University/Roslon Inst.); Simon G. Lillico (Roslin Inst./University of Edinburgh)
    • レンチウイルスでHEK293FTゲノムに組み込んだEGFPの遺伝子座を標的とする編集の比較では、CRISPR/Cas9の方が高効率であった。
    • しかし、相同組換え(HDR)テンプレートを利用するHDRの効率はTALENsの方が高かった。
    • CRISPR/Cas9とTALENsは相補的であり、ゲノム編集の目的に応じて選択することが望ましい。
  3. [レビュー] 合成生物学のツールとしてのCRISPR技術について考える
    • Corresponding author: Bernice Simone Elger (Inst. Biomedical Ethics, U. Basel)
    • 本レビューが引用しているEC synbio summitにおける合成生物学(synthetic biology)の定義
    • CRISPR技術による体細胞ゲノム編集には倫理上の問題は無い。CRISPR技術による生殖系列系のゲノム編集は、技術の安全性、個人と将来の世代のニーズの間のパラドックス、および、社会的不平等を拡大するようなヒトゲノムの恒久的改変などの問題が存在していることから、現状では制限が必要であるが、CRISPR技術の進歩に応じて臨床応用への制限を見直していくべきである。