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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

出典 
  • [NEWS&VIEWS] "Lipopolysaccharide transport ratcheted up" Bishop RE. Nature. 2019-03-20
  • [Li 論文] "Structural basis of lipopolysaccharide extraction by the LptB2FGC complex" Li Y,  Orlando BJ,  liao M. Nature. 2019-03-20
  • [Owen 論文] "Structural basis of unidirectional export of lipopolysaccharide to the cell surface" Owens TW [..]  Bertani BR, Ruiz N, Kruse AC. Nature. 2019-03-20.
  • [crisp_bio注] 構造情報は文末参照
背景
  • グラム陰性菌の表層は、リン脂質の二重層からなる細胞質膜 (細胞内膜)と、その外側にペリプラズムと呼ばれる薄い空間を介して、内側がリン脂質、外側がリポ多糖 (LPS: Lipopolysaccharide)で構成される非対称な脂質二重層 (細胞外膜)とで形作られている*。
  • LPSは細胞質で生成され、細胞内膜のペリプラズム側から引き出され、ペリプラズムを横断して細胞外膜へと輸送され、細胞外膜の細胞外側に位置するに至る。この輸送装置の実体は、LptAからLptGと呼ばれる7種類のリポ多糖輸送タンパク質 (Lpt: Lipopolysaccharide transport proteins)であることが知られている (下図* 参照)。Lpts 2019-03-23
  • (*) 奥田 傑・Daniel Kahne「大腸菌のペリプラズム空間でのリポ多糖の輸送は細胞質におけるATP加水分解エネルギーにより駆動される」ライフサイエンス新着論文レビュー 2012年12月4日 © 2012 奥田 傑・Daniel Kahne Licensed under CC 表示 2.1 日本
成果
  • 細胞内膜の細胞質側で生成されたLPS前駆体は、ABC輸送体フリッパーゼのMsbAによって細胞内膜を横断して成熟型になり、第2のABC輸送体であるLptB2FGC複合体によって細胞内膜から引き出され、LptC, LptAおよびLptD-LptEで形作られるブリッジを経て細胞外膜の細胞外表面側へと到達する。
  • このLptB2FGC複合体の構造が今回、Li (Harvard Medical School)ら、ならびに、Owen (Harvard University)らによって、それぞれ、Escherichia coliについてクライオ電顕法で、Vibrio choleraeEnterobacter cloacaeについてX線結晶構造解析により解かれ、その結果、LptB2FGC複合体がLPSに結合し、それに伴いLptB2FGC複合体のコンフォメーションが変化し、LPSが非可逆的に細胞外膜へ輸送される過程の分子機序が詳らかにされた。
機序
  • LptCの膜貫通ヘリックスが、LptFとLptGの間に"クサビ"として入り込み、キャビティーが生成されて、LPSが先行研究で見出されていたLptB2FGC複合体内チャンバーへと移動し、 βゼリーロール構造として知られるLptF内のLPS結合モチーフに局在し、LptC, LptAおよびLptDのβゼリーロール構造を経て細胞外膜表面に至る。先行研究では、LptFとLptGが対称関係にありいずれもがLPSの輸送経路になるとされていた。今回、"クサビ"が非対称的に入ることでLptFとLptGの関係も非対称になり、LptCの βゼリーロール構造ドメインがLptFに選択的に重なる。こうして、LptFからLptDまでLPSの輸送経路となるβゼリーロール構造が連続し、LptGを経由した輸送は発生しない。
  • ATPの加水分解とLPSの共役関係が、LptCと結合している状態のLptB2FGC複合体でより強くなることも同定された。ATPのLptB2FGC複合体への結合と加水分解のサイクルと、1分子のLPSがLptB2FGC複合体チャンバーからLptCひいてはブリッジへの押し出される事象とが、共役する。OwenらはV. choleraeE. LptB2FGC複合体の構造比較と変異誘導実験からブリッジの入り口にゲート構造が存在し、ATPの加水分解には影響することなく、その開閉によってブラウン運動によるLPSの細胞内膜への逆行が防止されることを示唆した。
構造情報 Li 論文
  • EMD-9118 nucleotide-free LptB2FG (4Å分解能)
  • EMD-9125 nucleotide-free LptB2FGC, final map (4.2Å分解能)
  • EMD-9128 nucleotide-free LptB2FGC, map with clear LPS density (4.4Å分解能)
  • EMD-9130 nucleotide-free LptB2FG, βJRshort map (5.9Å分解能)
  • EMD-9129 nucleotide-free LptB2FGC, βJRlong map (4.8Å分解能) 
  • EMD-9124  vanadate-trapped LptB2FG (4.1Å分解能)
  • EMD-9126  vanadate-trapped LptB2FGC (4.3Å分解能)
  • 6MHU nucleotide-free LptB2FG
  • 6MI7  nucleotide-free LptB2FGC
  • 6MHZ  vanadate-trapped LptB2FG
  • 6MI8  vanadate-trapped LptB2FGC
構造情報 Owen論文
  • 6MIT  LptB2FGC from Enterobacter cloacae (3.2 Å分解能)
  • 6MJP LptB(E163Q)FGC from Vibrio cholerae (2.85 Å 分解能)
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