(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/07/03)
  • Corresponding author: Rama Ranganathan (U. Texas Southwestern Medical Center)
  • タンパク質ファミリーのメンバーのアミノ酸配列のマルチプルアラインメントから出発して、各アミノ酸ならびにアミノ酸の全ての組合せの変異に対する機能的制約を定量的に解析する’statistical coupling analysis (SCA)’を開発したR. Ranganathanらが、’conditional neutrality’の機構に従ってタンパク質が進化し、現在の機能を獲得するに至るという仮説を、PDZドメインを例として提案。 
    conditional neutrality:それが起きた時には遺伝的にも環境応答においても中立な遺伝的変異が、それに続く遺伝的変異または環境の変化に進化適応するに重要な遺伝的変異となる。
  • PDZドメイン(PDZ domain)
    • PDZ(PSD95, DLG1, ZO-1)ドメインは6つのストランドからなるβサンドイッチ構造と2つのαヘリックス構造からなり、そのβ2ストランドとα2ヘリックスの間のグループに、ペプチドリガンドが結合することで、足場タンパク質として機能する(参考図参照)。
    • 38930001
    • PDZドメイン有するタンパク質は、結合するリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置のアミノ酸の種類によってクラスⅠ〜Ⅲの3種類に分類されている(クラスⅠ -X-S/T-X-φ-COOH;クラスⅡ -X-φ-X-φ-COOH;クラスⅢ -X-D-X-V (X 任意のアミノ酸;φ:疎水性アミノ酸))。
  • クラスⅠ PDZドメインの典型であるPSDpdz3は、クラスⅠのCRIPT (Cysteine-rich PDZ-binding protein)由来のペプチド-TKNYKQTSV-COOHに、クラスⅡの変異ペプチド(T-2F, -TKNYKQFSV-COOH)対する45倍の親和力で結合する。
  • C末端の4アミノ酸残基に変異を導入した160,000(204)種類のリガンドとPDZドメインとの結合親和性をツーハイブリッド法で解析し、WTがクラスⅠペプチド特異的、G330TがクラスⅠ/Ⅱ、H372AがクラスⅡペプチド特異的、H372A+G330TがクラスⅡリガンド(T-2F)特異的であることを確認。
  • CRIPT結合からT-2F結合へのクラス替えは、 
    クラス・ブリッジを介したパス(クラスⅠ→G330T変異(クラスⅠ&Ⅱ)+H372変異→クラスⅡ)と、 
    直接的なクラス・スイッチ(クラスⅠ→H372A変異→クラスⅡ) 
    によるパスがあり得る。
  • 進化シミュレーションの結果はG330Tによるクラス・ブリッジのパスで、クラスⅠからクラスⅡへと変化することを示唆。すなわち、G330Tの変異はクラスⅠリガンドへの結合活性を維持しつつ、H372変異が続くことで、クラスⅡリガンド結合へと適応する'conditional neutrality'が起きている。
  • X線結晶構造解析によって、結合するリガンドの特異性が変化していく構造基盤についても論じた。G330はβ2-β3の表面ループに位置しリガンドには結合していないこと、また、G330以外のアミノ酸変異のほとんどが中立か破壊的であったが、一部G330Tと同様な効果を示すリガンド結合部位から遠位の残基が存在した。
  • 以上の結果から、進化的適応の結果、活性部位と遠位のアミノ酸の間に、立体構造上隣接するアミノ酸のつながりによるアミノ酸のネットワーク(wire-like network)(‘sector’の一種)が生成され、その結果、タンパク質のアロステリック活性が生まれたと考えられる。