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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/07/10)
  • Corresponding author: Bing Chen (Boston Children’s Hospital/Harvard Medical School)
  • 背景
    • HIV-1のエンベロープ・スパイク[Env;三量体(gp160)3から(gp120/gp413へと切断]は、ウイルスと宿主細胞の細胞膜を融合させて、HIV-1の感染を実現する。gp120は受容体CD4と補助受容体(CCR5またはCXCR4)に結合するとコンフォメーションを大きく変化させ、膜融合を誘導する(PDBj今月の分子169参照)。
    • gp120/gp413はウイルス粒子表面の唯一の抗原であり、感染者によっては高親和性の抗体反応が誘導される。宿主の免疫システムの一次標的であるEnvの外部ドメインの構造解析は多々行われてきたが、脂質二重膜における膜貫通ドメイン(TMD)、膜貫通部位近傍(membrane proximal external region; MPER)および細胞質側末端(cytoplasmic tail; CT)の構造解析は遅れている。界面活性剤ミセルを利用して可溶化したCTを除くEnvのクライオ電顕解析が最近試みられたが、MPERとTMDは変性 (disordered)していた。界面活性ミセルによる脂質二重膜のミミックに成功しなかったためと考えられる。
  • 研究チームは今回、TMDの機能に注目し、溶液NMR法によって、脂質二重膜をミミックしたバイセル中に再構成したHIV-1 EnvのTMDの構造を原子分解能で明らかにした(参考図はPDB登録構造 5JYN)。
  • 39130001
    • TMDは秩序だった三量体を形成し、膜に埋め込まれた保存性が高いアルギニン(R696)を保護している。
    • アミノ末端のコイルドコイル構造とC末端の親水性コアがTMD三量体を安定化している。
    • 保存性が高い領域における各アミノ酸を変異させてもTMD三量体は崩壊せず、また、膜融合と感染への影響も最小限である。
    • その一方で、親水性コアが大きく変化すると、抗体に対するEnvの感受性が変化する。
  • NMR構造解析の結果、TMDがウイルスのエンベロープ・スパイクの膜へのアンカーと融合に限らずEnvスパイクを安定化させる機能を有することが明らかになった。HIV-1の免疫原の設計に当たっては、TMDがEnvのコンフォメーションに与える影響を勘案することが重要である。
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