[出典] "Near-infrared upconversion–activated CRISPR-Cas9 system: A remote-controlled gene editing platform" Pan Y [..] Wang Y, Lin Y, Song Y. Sci Adv. 2019-04-03.
概要
- 南京大学と南京工業大学ならびに厦門大学の研究チームは今回、CRISPR-Cas9の担体として、upconversion nanoparticles (UCNPs)に基づく 近赤外光に応答するナノキャリア (nanocarrier)を開発し、Cas9をUCNPs-Cas@PEIの形で送達しかつ近赤外照射することで、腫瘍細胞の増殖を阻害した。
UCNPs-Cas@PEI
- UCNPsは、 近赤外光 (980 nm)を局所的に紫外光へと上方変換する“ナノトランスデューサー (nanotransducers)”として機能し、光感受性分子の切断を介して、CRISPR-Cas9の担体からのリリースを実現する (原論文Fig. 1引用下図 B 参照)。
- UCNPs-Cas@PEIは原論文Fig. 1引用上図のAにある手順で合成する:水溶性と生体適合性を向上させるために、UCNPsを6-nmの厚さのシリカで被覆し (UCNPs@SiO2)、カルボキシ基と紫外光で分解するONA (4-(hydroxymethyl)-3-nitrobenzoic acid)を付加し(UCNPs@SiO2-ONA )、続いて、Cas9-sgRNAをONAに結合 (UCNPs-Cas)、さらに、エンドソームエスケープが円滑に進行するようにポリエーテルイミド (PEI)で被覆する (UCNPs-Cas@PEI)。
検証実験
- ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞とKB細胞 (当初、口腔表皮癌由来とされていたが、HeLa細胞のサブライン)において、近赤外光照射、UCNPs-Cas@PEIおよび近赤外光から変換された紫外光が、細胞生存性を阻害しないことを確認。
- EGFPを導入したKB細胞において、EGFPを標的とするsgRNAを帯びたUCNPs-Cas9@PEIが、近赤外光照射によってEGFPを消光することを確認。
- A549細胞にて、抗がん剤の標的とされているpolo様キナーゼ1 (PLK-1)を標的とするUCNPs-Cas9@PEIと近赤外照射によりPLK-1のノックアウトと細胞増殖抑止を確認。
- A549細胞を移植したヌードマウスに静脈注射したUCNPs-Cas9@PEIは肝臓と脾臓に集中的に分布したが、UCNPs-Cas9@PEIを腫瘍内に投与し、近赤外光を照射することで、腫瘍の増殖が顕著に抑制されることを確認 (近赤外光を照射しない場合は抑制効果無し)。また、組織損傷や体重の減少などの副作用は見られず、UCNPsが徐々に排泄されることを確認。
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