2023-10-14 責任著者の一人コーネル大学のAilong Keのインタビュー記事へのリンクを以下に追記
"Researcher discusses CRISPR-Cas3 as a DNA shredder for gene therapy" Swift J. Phy.org 2013-10-12. https://phys.org/news/2023-10-discusses-crispr-cas3-dna-shredder-gene.html

2019-04-10
Molecular Cell 誌刊行論文に準拠した初稿
[出典]
"Introducing a Spectrum of Long-Range Genomic Deletions in Human Embryonic Stem Cells Using Type I CRISPR-Cas” Dolan AE [..] Ke A, Zhang Y. Mol Cell. 2019-04-08.; NEWS "New DNA “shredder” technique goes beyond CRISPR’s scissors" Michigan Medicine Gateway News. 2019-04-08.

[背景] 
 CRISPR-Casシステムはクラス1とクラス2に大別されているが、ヒト細胞でのゲノム編集にはクラス2のタイプII-Cas9をはじめとしてタイプV-Cas12と-Cas14ならびにタイプVI-Cas13が応用されてきた。一方で、クラス1はクラス2よりも広範な微生物で見出され、バクテリアとアーケアのゲノム編集に利用される例はあったが、ヒト細胞のゲノム編集への利用は実現されていなかった。

[概要]
 コーネル大学、ミシガン大学、メルボルン大学、中国薬科大学 (兼務)の研究グループは今回、Thermobifida fusca由来のタイプ I-E CRISPR-Casシステムによって、ヒトES細胞H9ヒト一倍体細胞HAP1において、Cas9やCas12では容易に実現できない染色体の比較的長い領域の削除が可能なことを実証した (原論文Graphical Abstract参照)。

[詳細]
  • タイプII CRISPR-Cas9では、Cas9がsgRNAにガイドされて標的に結合し標的を切断するが、タイプI-Eでは、複数のCasタンパク質からなるマルチサブユニットのRNP複合体'Cascade (CRISPR-associated complex for antiviral defense)'が、crRNAを介して標的部位に結合したところに、ヘリカーゼとヌクレアーゼの双方の活性を帯びたCas3がルクルートされ、Cas3がDNAを分解していく (*)。
  • 大腸菌で発現させ精製したT. fusca由来のCas3-NLSとCascade-NLSをRNPとしてhESCsとHAP1細胞へ導入し、それぞれ30%と60%の編集効率を達成した。
  • 細胞集団の中で、削除の始点はPAM近位領域の∼400-bpウインドウ内に分散し、削除の終点は、PAMから上流へ0.5 kb ~ 100 kbの範囲に分散していた。また、削除領域の境界での結合はシームレスな場合が78%を占め、その他、挿入、逆位などが見られた。始点がCas3の最初の切断位置より上流であることは、Cas3はDNA上を移動するごく初期にはDSBを誘導しないことを示唆する。
  • 研究グループは、こうした解析を、long-range PCRと、Tn5によるタグメンテーションとNGS、加えて、独自に開発したデータ解析プログラムによって、実現した。
  • オフターゲット作用についてはタイプIシステムに関する先行研究の結果とin silico解析から、ほとんど発生しないとした。
[今後の展開]
  • 今回の実験で行なったCascadeとCas3の精製を、mRNAまたはプラスミドからの発現に替えるなど、本手法はさらなる効率化が可能である。
  • ゲノムの大領域の削除に一対のsgRNAsやタイリングsgRNAsを必要とせず、単一のcrRNAに基づくCascade-Cas3の"シュレディング"はヒトゲノムの98%以上を占める広大なノンコーディング領域の解析、寄生性あるいは病原性の遺伝要素群の除去、あるいはまた、不活性化したCas (dCas3)の"走行性"を活かした広範囲にわたるエピゲノム修飾の解析への応用が期待される。
(*) Cas3関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2018/10/20 [第1項] タイプI-E CRISPRシステムにおいて、Cascade複合体が外来DNAからのスペーサ獲得と外来DNAの切断の双方に関わる分子機序
  • 2018-04-28 crisp_bio記事 タイプ I CRISPR/CasシステムにおけるCas3の動き