(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2015/10/04)
  1. [論文] CRISPR/Casシステム進化分類の改訂-新たなゲノム編集ツールの発見へ: Eugene V. Koonin (NCBI)
    • CRISPR/Cas9座位には、再編成ならびに座位全体またはそのモジュールの水平移動を含む急激な変化が起きてきた.このため進化系統分類は単純には済まない.
    • 今回、Koonin等は、タンパク質ファミリーとcas 座位の構造に注目して、ほとんどのCRISPR-cas 座位を、明確なクラス、タイプおよびサブタイプへと再分類した.
    • 新分類体系は全体としてこれまでの分類体系を維持しているが、2種類のクラス、5種類のタイプ、そして16種類のサブタイプへと展開している.
    • 分類体系が比較的安定していたことは、CRISPR/Casシステムのほとんどの一般的な変異は明らかにされたことを示唆している.しかし、稀であり、現時点で分類不可能な変異体の存在は、ゲノム編集の新たなツールが存在することも示唆している.
  2. [論文] CRISPR/Cas9システムによってNEUROG2の2重レポーターをノックインしたヒトiPS細胞株樹立: Ying Liu (U. Texas Health Science Center at Houston)
    • 前神経の重要な転写因子Neurogenin2 (NEUROG2)用の蛍光タンパク質と抗生物質耐性の2重ノックイン・レポーターを組み込んだヒトのiPS細胞を樹立.
    • 遺伝子ターゲッティングの効率が、CRISPR技術に依る相同組換え修復(HDR)によって、通常のプロトコルの場合の〜3%から〜33%へと大幅に向上した.また、オフターゲット効果は観察されなかった.
    • 加えて、NEUROG2の発現を一時的に誘導するトランス活性化因子を設計し、ヒトNEUROG2の転写因子結合部位とトランス調節領域の同定の助けとした.
  3. [論文] CRISPR/Cas9システムによって誘導されるゲノム変異検出法の研究: Geng Sheng Cao (Henan U.)
    • 哺乳類ゲノムの2本鎖切断の非相同末端結合(NHEJ)修復によって生じるindel変異を90分以下で検出可能とする手法を、定量的PCR(qPCR)-高解像度融解(High Resolution Melting:HRM)曲線分析技術に基づいて開発.
    • 293T細胞におけるIL2RG遺伝子とEMX1遺伝子をモデルとして手法を検証し、再現性と精度を確認.従来の変異検出法AFLP法とSURVEYORアッセイよりも、高速でSN比率が高い.
  4. [論文] ヌクレアーゼに拠る二本鎖切断を修復する過程を、単一の内在遺伝子をレポーターとしてモニターする: Andrew C. G. Porter (Imperial College London)  
    • メガヌクレアーゼI-SceI またはCRISPR/Cas9に拠る二本鎖切断を修復する(double strand break repair: DSBR)機構を、HPRT 遺伝子を単一の内在性レポーター遺伝子としてモニターした.ここで、HPRT (hypoxanthine phosphoribosyl transferase (ヒポキサンチン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ酵素))遺伝子はレッシュ・ナイハン症候群のX染色体原因遺伝子である.
    • I-SceI の場合、3種類のDSBRパスウエイの正確な非相同末端結合、変異を引き起こす非相同末端結合ならびに相同組換えの頻度が、4.1%、1.5% ならびに0.16%と見積もられたが、Cas9はそれと異なった様相を呈した.
    • I-SceI 感受性HPRT ミニ遺伝子において、DNA修復用テンプレートとして一本鎖または二本鎖オリゴヌクレオチドを使った場合よりも長い二本鎖DNAを利用した場合の方が、修復効率が高いことを見出した.
    • 細胞周期に特異的になるように改変したI-SceI の評価も行った.
  5. [エッセイ] ゲノム編集技術の研究と応用をめぐる社会の責任: J. Benjamin Hurlbut (Harvard U.) 
     主として、2015年1月にJennifer Doudna等が主催したCRISPR/Cas9による生殖細胞系列のゲノム編集を主題とするNapa会合での議論を踏まえたエッセイ.著者は、Napa会合がモデルとしたAsilomar会議に対するTed Kennedy上院議員(当時)の発言“They were making public policy, and they were making it in private.” を引用し、最終章のタイトルを“Toward Democratic Innovation”としている.
  6. [レビュー] In vivo 疾患モデル: Lukas E. Dow (Weill Cornell Medical College) 
     ヒト癌の複雑性をより良く反映するモデル開発の観点から、in vivo 疾患モデル作出へのCRISPR技術の応用をレビュー.
  7. [プロトコル] ゲノム編集および転写制御用のスペーサー配列の選択と検証: Sébastien Rodrigue (U. Sherbrooke) 
     バクテリアゲノムにおいて有用なスペーサー配列を同定しテストするバイオインフォマティクスと実験のプロトコルを提示.
1 論文→Kira S. Makarova et al. "An updated evolutionary classification of CRISPR-Cas systems.." Nat. Rev. Microbiol. Published online 2015 Sep 28.